抄録
【目的】 細胞外マトリックス(Extracellular matrix、ECM)とは、細胞と細胞もしくは細胞群と細胞群の間隙を埋める充填物質であり、骨格筋においては筋膜がそれにあたる。そして、ECMの主要構成成分はコラーゲン線維であり、これが網目状の構造を成す筋膜は弾性に富んでいる。また、コラーゲン線維は水分やムコ多糖類より成る基質の中に存在しているが、基質の性状は粘稠性が高く、これはムコ多糖類の一種であるヒアルロン酸の影響によるところが大きい。そして、ヒアルロン酸は個々のコラーゲン線維の滑剤として機能している可能性があり、筋膜の弾性にも関与していると考えられる。一方、骨格筋は不動によってその弾性が低下することはよく知られているが、その弾性を司る筋膜の変化については不明な点も多い。そこで本研究では、筋膜の弾性に関与すると考えられるコラーゲン線維とヒアルロン酸について不動による変化を検索した。【材料と方法】 8週齢のWistar系雄ラット100匹を50匹ずつ実験群と対照群に分け、実験群は、ギプスを用い両側足関節を最大底屈位の状態で1、2、4、8、12週間(各10匹)不動化した。各不動期間終了後は、両側ヒラメ筋を摘出し、右側ヒラメ筋は組織固定後に細胞消化法を施し、筋内膜コラーゲン線維網の形態を走査電子顕微鏡で観察した。一方、左側ヒラメ筋の一部の試料から凍結横断切片を作製し、I・III 型コラーゲン抗体ならびにヒアルロン酸結合タンパクを用いた免疫組織化学染色を実施した。また、一部の試料はホモジナイズし、サンドイッチバインディング法にてヒアルロン酸含有量を測定した。【結果】 筋内膜コラーゲン線維網の形態は、不動1、2週後は対照群と同様で、筋線維の長軸方向に対して縦走するコラーゲン線維が多数認められたが、不動4週後以降は横走するコラーゲン線維が増加していた。一方、免疫組織化学染色像では、不動1、2週後にIII型コラーゲンとヒアルロン酸の強い反応が認められ、ヒアルロン酸含有量は不動1週後から対照群より有意に増加していた。【考察】 今回の結果から、筋内膜コラーゲン線維網の形態変化は不動4週後以降に認められ、この変化はコラーゲン線維の滑走性低下に伴う筋内膜の弾性低下を示唆している。しかし、コラーゲンやヒアルロン酸の増加は筋内膜コラーゲン線維網の形態変化よりも早期に認められたことから、これらの変化がコラーゲン線維の滑走性低下に直接影響しているかどうかは不明である。ただ、先行研究では、コラーゲンの増加は組織の線維化につながり、ヒアルロン酸の増加は組織内の水分移動を減少させると報告されている。したがって、これらの変化も骨格筋の弾性低下に影響している可能性が高いと思われる。