抄録
はじめに 股関節疾患患者は疼痛,関節変形,筋力低下などが要因となり跛行を呈することが多い.当院ではそのような股関節疾患患者で手術適応となったものに対し,術後早期からリハビリテーションがスムーズに実施できるよう整形外科外来受診時に,理学療法士による術前評価及び訓練指導を行っている.その際,歩行能力の評価として床反力計内蔵型トレッドミル(ADAL 3D Treadmill)を使用し,客観的かつ定量的に分析を行うことで,トレッドミルによる術前評価が術後リハビリテーションを進めていく上で有用であると考えられたので報告する.対象及び方法 当院整形外科にて,股関節疾患で手術適応とされた症例47名を対象とし,術前・術後の歩行分析を行った.内訳は変形性股関節症42名,大腿骨頭壊死4名,慢性関節リウマチ1名であり,一側性(以下,A群)が25名(56.5±15.0歳,20-78歳),両側性(以下,B群)19名(57.9±12.0歳,42-81歳),多関節性(以下,C群)3名(62.7±17.0歳,43-73歳)であった.術式は人工股関節全置換術40名,人工骨頭置換術2名,寛骨臼回転骨切り術4名,人工骨頭置換術+外反骨切り1名であった.術前評価は整形外科外来受診時とし,術後評価は退院時とした.術前・術後の評価項目には下肢MMT,下肢ROM,日整会変股症判定基準(以下,JOAスコア),歩行評価として多数歩かつ3成分(垂直・前後・左右成分)の床反力が計測可能な床反力計内蔵型トレッドミルを用いた.歩行速度はトレッドミル上で歩行した時の快適歩行速度とし,普段補助具を使用している症例には手すりの使用を許可した.結果及び考察 JOAスコアの術前・術後を比較すると,術前の術側においてA_から_Cの3群ともに疼痛の得点で低値を示したが,術後には疼痛の改善が著明であり合計点に大きな変化を示した.歩行能力の項目ではA群で術前より高得点を示し,術前から術後の変化が10.6点から11.7点であったのに対し,B群,C群では7.6点から9.0点,5.0点から10.0点であった.このような術前に歩行能力が低下していた症例の床反力波形は垂直成分の1峰性化,前後成分の制動期・駆動期の消失,側方成分の左右差がみられたのに対し,術後には重心移動がスムーズとなり,前後成分で制動期・駆動期の出現,側方成分の左右均等化,ばらつきの減少を認め,正常波形に近づく傾向を示した.また,床反力計内蔵型トレッドミルは左右を視覚的に比較することが容易であり,股関節疾患に特有の逃避性跛行や手すりの有無による歩容の変化を波形から捉えることが可能であった.このように,術前からトレッドミル歩行分析を導入することで主観的な観察では判断し難い術側への重心移動が的確に把握でき,術後の正常歩行獲得のための治療プログラム立案に有用なものになると思われた.