理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: AO019
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主題(科学的根拠に基づく理学療法)
地域在住高齢者を対象とした転倒刺激付きトレッドミルトレーニングのバランス機能改善効果 
無作為化比較対照試験
*大渕 修一柴 喜崇上出 直人
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抄録

【目的】 我々は歩行時の動的バランス機能を改善することを目的に転倒刺激付きトレッドミルを開発した。この機器は、両側分離型トレッドミルの一側の歩行ベルトを瞬時間減速したり加速したりすることによって、転倒の主要な起因である、つまずきやすべりをシミュレートするものである。この研究では、この転倒刺激付きトレッドミルによるトレーニングが地域在住高齢者のバランス機能を改善するかどうか検討することを目的とした。【方法】 65歳以上の高齢者32名を地域から募集した。すべての被験者は、研究に対する説明を受け書面により実験参加の意志が確認された。初回評価により3名の被験者が高血圧、急性の心疾患あるいは重篤な糖尿病により除外された。29名の被験者は無作為に2群に分けられ、両群とも時速2kmで週2回15分間のトレッドミル歩行を行った。介入群は、トレーニング中に転倒刺激を左右無作為に132回(中間11分間を5秒の間隔で無作為に)加えられ、コントロール群には転倒刺激を加えなかった。転倒刺激は一側の歩行ベルトを500 ms減速することによって加え、減速量は1週毎に歩行速度の20%, 40%, 60%と増加させた。バランス機能は片足立ち時間、ファンクショナルリーチ、Timed Up & Go Test、10 m最大歩行速度、転倒刺激後の下肢筋の反応潜時、転倒刺激後の骨盤の前後加速度で検討した。統計解析には繰り返しのある分散分析と2元配置分散分析を用いた。危険率は5%とした。【結果】 1名の被験者が最終評価のみ受けることができなかったが、すべての被験者が1ヶ月間の介入を終了した。介入群ではファンクショナルリーチ、Timed Up & Go、下肢筋の反応潜時、骨盤の加速度などの動的なバランス測定で有意な改善を認めた(P<.01)。一方、コントロール群ではTimed Up & Goのみに有意な改善を認めた(P<.01)。2元配置分散分析で介入方法と介入前後の交互作用を認めた項目はファンクショナルリーチ、下肢筋の反応潜時、骨盤の加速度であった(P<.05)。【考察】 転倒刺激付きトレッドミルトレーニングがバランス機能を改善するかどうかを調べることを目的に地域在住高齢者を対象に無作為化比較対照試験を行った。その結果、転倒刺激付きトレッドミルトレーニングを行った群では、有意に動的なバランス機能改善効果が見られ、このトレーニングが有効であることがわかった。一方、通常のトレッドミル歩行だけではバランス機能の改善効果は限られており、一般の転倒予防教室に見られる歩行機能改善を主体とした介入だけでは効果が限られることが考えられた。転倒の主要な起因である、つまずきやすべりに特異的な介入が必要であると思われる。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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