理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: DO419
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骨・関節疾患(整形外科疾患)
転倒装置を用いた転倒動作の分析
転倒方向による転倒パターンの違いについて
*島 浩人岡 正典中村 孝志依岡 徹吉本 和徳神先 秀人吉岡 照雄
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抄録

【はじめに】大腿骨頚部骨折の発生機転としては大部分が転倒であり、五十嵐らは530症例の受傷機転を調べたところ、89%が転倒であると報告している。しかし、転倒研究の多くは運動機能、生活環境、薬物等との関連などの内的、外的要因について調査されているが、転倒動作の分析についての報告しているものは少ない。大転子の衝撃により大腿骨頸部骨折が起こるとされているが、転倒方向の違いや転倒時の防御反応により、接地する身体部位や大転子への衝撃にも違いがあると考えられる。今回、我々は被検者を転倒させる装置を開発し、それを用いて転倒方向による転倒パターンの違いについて検討したので報告する。【方法】転倒装置については幅1m、長さ2.5mの底にキャスターついた台の端に被検者に立ってもらい、その台がスプリング(バネ係数:2kgf/cm)の作用により、急激に動き出し被検者が転倒するという仕組みである。安全対策としては転倒方向に厚さ30cmのマットレスを敷き詰めた。対象は本研究の趣旨、目的に同意した形態異常や運動器疾患を有さない健常女性4名、平均年齢38.5±15.9才(22から58才)であった。被検者には身体の部位が特定しやすいように伸縮性のある素材で身体にフィットするスーツきてもらい、体表面にマーカをつけた。被検者に転倒装置に立ってもらい、何の警告もなしに台を動かし転倒させ、その転倒シーンを250frame/sのハイスピードカメラ(PHOTRON製FASTCAM-PCI)2台で撮影した。台に立つ方向としては、各方向に転倒できるように、台の進行方向に対して前方、斜前方、側方、斜後方、後方とし5方向に転倒させ、接地部位の順序と大転子の衝撃に着目した。【結果】1)前方への転倒:3例では膝→手が接地し、1例では両膝、両手が同時に接地し、四つ這い位をとった。2)斜前方の転倒:3例では前方(マット側)の膝→大転子、1例では手→膝を接地して四つ這いとなった。3)側方への転倒:2例では先に膝→大転子が接地し、他の2例では大転子から接地した。大転子から接地した2例についてはsteppingといった防御反応が認められなかった。4)斜後方への転倒:3例では大転子から接地し、1例では手掌(マット側)と大転子と坐骨間が同時に接地した。4例とも接地する瞬間の股関節は外旋していた。5)後方への転倒:3例では坐骨→手が接地し、1例では手→坐骨と接地した。【考察】前方、後方転倒では大転子の接地はなく、斜前方転倒においては先に膝が接地し、大転子への衝撃を分散されていると考えられる。側方転倒においては足部のsteppingがある場合は膝が先に接地し、大転子の衝撃を分散させているが、それがない場合は大転子から接地し、さらに転倒方向が斜後方になるとsteppingの有無にかかわらず、大転子から接地する率が高くなり、かつ股関節が外旋していることも加え、大転子に加わる応力が強まるのではないかと考えられる。よって、斜後方への転倒が大腿骨頸部骨折を引き起こしやすい最も危険な転倒ではないかと考えられる。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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