抄録
【はじめに】今回、右大腿部近位前外側部の悪性軟部腫瘍を切除し、放射線治療を経て、HMRS下肢再建システムを用いた人工骨頭置換術を施行された症例が脱臼に至った原因について、筋機能改善との関連に着目したので若干の考察を加え報告する。【症例及び経過】症例は68歳女性。1990年右大腿近位前外側部の悪性軟部腫瘍を他院にて切除、その後120回に及ぶ放射線治療を施行。1997年右大腿骨転子下の病的骨折を生じ、2度にわたる観血的治療を行うも骨癒合得られず偽関節となり、本院受診。2002年9月20日HMRS下肢再建システムによる人工骨頭置換術を行った。理学療法開始時、膝関節の著名な可動域制限(屈曲25°)を認め、筋力はMMTで膝関節伸展2、屈曲3、股関節屈曲2、外転2、内転3レベル、SLRは可能。理学療法は両下肢の筋力改善、右大腿部周囲筋群の柔軟性改善などを目的に実施。術後4週目より両松葉杖歩行開始となったものの、振り出し時に股関節内旋、下腿の内旋を著名に認め、転倒の危険性が考えられたため、歩容の改善を目的とした運動を追加した。その後、FWBでの片松葉杖歩行および階段昇降が可能なった。術後8週目、病室にてベッド上移動中に脱臼。整復後、約1週間スピードトラック牽引による安静を強いられる。【考察】 HMRS下肢再建システムによる人工骨頭置換術は、患肢を温存出来る反面、骨盤・大腿部及び下腿部を結ぶ筋群の起始・停止部である大転子、小転子などの近位大腿骨が存在しなくなるため、筋機能の低下を余儀なくされる。一般的に股関節の手術後、軟部組織は約3から4週間で修復され、それに伴い筋力も改善すると言われている。また、股関節、特に外転筋群の筋力の回復が重要であることはこれまでに多くの報告がなされており、下肢の支持性や脱臼予防のために理学療法は必須である。今回、術前のMRIや術中所見より、股関節、大腿部外側周囲筋群の著名な瘢痕化を認めた。これらは放射線治療による影響と考えられ、術後のADL能力が術式や手術侵襲などの影響と併せて危惧されたが、運動機能は予想に反して改善を示し、それに伴いADLが拡大・改善された。しかし、重要とされている股関節外側周囲筋群の筋力改善はみられず、動作を行う上で、残存機能に頼らざるおえない状況となった。歩行に関しては、振り出しでの内側広筋・内転筋群・内側ハムストリングスなどの過剰な働きが結果として特異的な歩容を呈するに至ったと推測される。術後の筋電図においても、膝関節伸展およびSLRなどの動作で内側広筋と内転筋群などの大腿部内側筋群を中心とした筋活動のみがみられた。以上より、股関節外側周囲筋群の脱臼に対する保護的能力低下と特異的な筋活動による動作の反復が脱臼肢位への強制力を助長し、脱臼の原因となったのではないか考えられた。さらに、機能やADLの改善にとらわれすぎたあまり、脱臼の危険性に対する視野が狭くなったことも原因の一つと考える。