抄録
【はじめに】セメントレスTHA術後の早期荷重は短期中期成績から多くの施設で取り入れられるようになり、杖歩行獲得までの期間や入院期間も短縮される傾向にある。当院においても術後2週前後で病棟内杖歩行を開始している。しかし、退院時における独歩(杖を使用しない歩行)では患側への体幹の傾きが歩容上の問題となることが多い。そこで今回、セメントレスTHA術後患者の退院時における体幹、骨盤の動きならびに左右方向への重心移動に着目して歩行分析を行ったので報告する。【対象】片側セメントレスTHA術後4から5週が経過した女性5名(年齢29から 52歳)を対象とし、また対照群として健常人女性5名(年齢21から29歳)の歩行分析を行った。【方法】3次元動作解析装置(住友金属社製)を用いて、自由歩行における体幹・骨盤の左右への移動幅、体幹・骨盤の水平回旋角度、骨盤の側方傾斜角度の測定を行った。左右の重心移動幅の測定は床反力を2回積分して算出した。測定は自由速度歩行にて5回行い、床反力計への接地とマーカー追跡が良好であった各1データを分析対象とした。各パラメーターでの2群間の差の検定にはt検定を用いて、危険率5%を有意基準とし比較した。【結果】歩行速度は健常群1.17±0.08(m/s)、THA群0.80±0.17(m/s)であり有意差を認めた(p<0.01)。体幹の左右への移動幅は健常群43.7±10.5mm、THA群で72.9±18.1mmで有意差を認めた(p<0.05)。骨盤の左右への移動幅は健常群で41.5±6.1mm、THA群で 53.7±16.4mmで有意差を認めなかった。体幹・骨盤の水平回旋角度は健常群でそれぞれ9.4±2.0°、9.7±2.8°、THA群でそれぞれ8.5±.3.2°、13.1±8.5°でそれぞれ有意差を認めなかった。骨盤の側方傾斜角度は健常群8.8±1.0°、THA群6.7±1.8°で有意差を認めなかった。左右の重心移動幅は健常群23.2±2.7mm、THA群41.7±15.4mmで有意差を認めなかった。【考察】今回セメントレスTHA術後患者の退院時の歩行分析を行った。THA群は歩行速度が低いこと、体幹の側方移動が有意に大きいことに加えて、骨盤の側方への移動幅が大きくなる傾向がみられ身体全体の運動対応の結果、左右の重心移動幅が大きくなる傾向になったと考えられる。これは退院時には杖なしでの歩行機会が少ないこと、手術によるアライメントの変化、またはそれに伴う筋の協調性が確立されていないことが原因で歩行の定常性を保つことができないためと考えられる。また、THA群は骨盤の側方傾斜角度は少ない傾向にあり、水平回旋角度は個人差によるばらつきがみられた。退院後、活動量の増加に伴い歩行の定常性がより得られると考えられるので、体幹、骨盤の動きに着目し長期的に歩行の評価を行っていく必要がある。