理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: DP578
会議情報

骨・関節疾患(整形外科疾患)
主観的な身体感覚と荷重量の変化について
全荷重移行期の被験者を通じて
*黒郷 哲宇高 貢加藤 晃子桑原 弘実三橋 弘昌堤 陽子東野 日出海眞下 晴彦沖山 努
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抄録
【はじめに】理学療法の中で、身体の状態を数値化して客観的に表現することの重要性は、言うまでもない。しかし、日々の臨床の中では症例の主観的な情報も不可欠であり、特に動作を再獲得する際に、症例の主観的な感覚や気づきが重要なきっかけとなることを多くのセラピストが経験していると思われる。今回、現在は全荷重が許可されているが、以前に荷重制限を受けた経験をもつ被験者に対し、主観的な身体の感覚や判断で客観的なデータがどのように変化するか、体重荷重量を用いて検討した。【対象】対象は、当院入院中の整形外科疾患で観血的治療を受け、部分荷重を経て全荷重へ移行した者のうち、立位が可能であり荷重時痛がなく、中枢性疾患の既往のない10名とした。被験者の疾患は、慢性関節疾患による人工関節置換術4名(うち股関節全置換術2名、膝関節全置換術2名)、大腿骨頸部骨折5名(うち人工骨頭置換術1名、骨接合術4名)、その他1名(両果部骨折1名)であり、全荷重開始より平均5.1週経過しており、平均体重47.4Kg、平均年齢78.0才であった。【方法】まず、被験者に姿勢は特に指示せず、安静立位を5秒間保持させ、アニマ社製重心動揺解析システムG6100を用いて荷重量を3回計測し、体重に対しての荷重割合を求めた。計測直後、荷重量の経時的変化を図表化して被験者に紙面にて提示し、左右の荷重量に違いがあることを説明した。その後、前回同様に安静立位を5秒間保持させ、荷重量を3回計測し荷重割合を求めた。また、計測前後の歩行状態をビデオ撮影し、当院の理学療法士8名で歩容の観察を行った。【結果】10名のデータが得られ、説明前における患肢の平均荷重割合は40.4%であり、説明後は44.2%であった。10名中9名において、説明の前後で患肢の荷重割合は0.3%から12.2%の範囲で増加し、10名中1名において2.9%減少した。また、歩容の観察から、説明後に患肢立脚期の延長や歩幅の増大等の変化が観察された。【考察】被験者は整形外科疾患のため、バランスや感覚等の機能低下は少なく、患肢に全荷重可能な事も理解していたが、荷重量に左右差を認め、部分荷重状態となった立位であった。荷重状態の説明により、被験者は患肢を十分使えていないと気づき、荷重感覚や支持基底面の状態を意識した。これらの説明が起因となり新たな運動感覚を獲得し、立位を変えるためのきっかけとなった。その結果、客観的なデータである荷重割合の増大と歩容の変化を認めたと考える。動作を再獲得する際、このような潜在的かつ主観的な身体の感覚を賦活させることも重要である事を認識した。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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