理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: AO025
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主題(科学的根拠に基づく理学療法)
低負荷の筋出力調節運動は廃用性筋出力能力低下を予防できるか?
筋出力パフォーマンスと経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位からの検索
*金子 文成木塚 朝博山田 洋横井 孝志増田 正
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キーワード: 廃用, 筋力, 運動誘発電位
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抄録

【はじめに】 我々がこれまでに報告してきた身体不活動が筋出力能力(最大筋力,筋出力調節能力,筋持久力)に及ぼす影響に関する研究では,1週間のギプス固定によりMRIで計測した筋断面積が変化しなかったにも関わらず,最大随意収縮筋力(MVC)は20%程度低下していた。したがって,その主な原因として末梢の筋量以外の原因が考えられた。諸家らの筋出力能力低下の予防に関する報告では,MVCの低下を予防する観点から,高負荷を与えた効果を検討したものがほとんどである。そこで本研究は,低負荷の運動でも神経系機能に刺激を与えるような課題を用いれば,ある程度の筋出力能力低下を予防できるのではないかとの視点から,平均で20%MVC負荷の筋出力調節運動(LowEx)が廃用性筋出力能力低下を予防できるかどうかを明らかにするために行った。【方法】 対象は本研究に参加することを十分な説明の後に同意した健康な成人男性12名であった。足部から大腿部までを7日間ギプス固定された群6名(固定群)と,固定群と同様にギプス固定を実施したが毎日30分間のLowExを実施した群6名(低負荷運動群)の2群に分け,以下の測定はギプス固定の前後(固定前,固定後)に行なった。下腿三頭筋から筋電図を導出し,足関節底屈のMVCと低負荷の一定筋出力による軌跡追従課題(追従課題)を行なわせた。安静時に後脛骨神経の電気刺激を行ない最大上M波と単収縮筋力を計測した。また,安静時と5%MVCの筋出力中に経頭蓋磁気刺激を実施し,運動誘発電位(MEP)を計測した。MEPは運動閾値の0.95倍,1.05倍,1.10倍,1.15倍の強度で誘発した。一連の測定終了後にMRIを撮影し,筋断面積を計測した。【結果】 固定後のMVCおよびMVC発揮中の筋電図二乗平均平方根(MVCrms)は,固定群で有意に低下していた。低負荷運動群では固定前後で有意差がなかった。追従課題での力曲線のばらつきは,固定群で有意に大きかったが低負荷運動群では変化しなかった。MEPは安静時には両群共に有意に変化しなかった。5%MVC中のMEPは,固定群では固定後に有意に増加しており,かつ刺激強度に応じて増加するようになった。しかし,低負荷運動群では固定前後で有意な変化はなかった。筋断面積は両群共に固定前後で有意な変化はなかった。【考察と結論】 本研究では,1週間のギプス固定期間中にLowExを実施することによって,1)MVCの低下,および 2)低負荷の筋出力調節能力低下,を予防できた。すなわち,LowExは筋出力調節能力低下に対してのみならず,MVC低下予防にも効果があった。また,固定群で検出されたMEPの変化もLowEx により予防することができた。これらのことから,廃用性筋出力能力低下で筋量の原因以外で引き起こされている部分については,LowExで予防できるものと考えた。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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