抄録
【はじめに】高齢者に多発する大腿骨頚部骨折の手術は、麻酔技術の進歩にもより、重度の合併症がない限り積極的かつ早期に行われる。今回我々は、術後の移動能力獲得について片側大腿骨頚部骨折の既往があり、さらに反対側の頚部骨折を受傷した両側大腿骨頚部骨折(以下両側例)と初回受傷例(以下片側例)と比較検討したので報告する。【対象と方法】対象は1999年4月から2002年3月に当院整形外科にて観血的治療を施行した218例のうち、死亡例などを除く209例とした。そのうち両側例は20例(男性3例、女性17例)で、片側例は189例(男性36例、女性153例)であった。方法として、診療録より後方視的に退院時移動能力を1)歩行自立群2)監視または介助を要する介助歩行群3)歩行不能群の3群に大別し調査した。また、歩行獲得に関する因子として年齢,骨折型と術式,手術から退院までの治療期間,訓練上支障となる合併症や既往の有無を調査した。【結果】1)歩行自立群は両側例10例50%(片側例121例58.9%)で、介助歩行群は両側例6例30%(同42例20.1%)、歩行不能群は両側例4例20%(同46例21%)であった。2)平均年齢は歩行自立群の両側例が83.6歳、片側例が77.3歳で、介助歩行群・歩行不能群になるに従って両例とも高くなった。3)全体として骨折型は内側骨折が38.7%で術式は人工骨頭置換術が多く、外側骨折は61.3%で術式はCHSが多かった。4)平均治療期間は内側骨折では51.6日間、外側骨折では56.9日間で、歩行不能群の治療期間が両例とも短かった。5)合併症や既往の有無では、全体として高血圧・糖尿病・心疾患などの内部障害が最も多く、次いで頚部以外の骨折、脳血管障害、白内障、痴呆の順であり、痴呆については歩行不能群に多くみられた。【考察】当院における大腿骨頚部骨折の後療法の頻度はかなり高く、最近では4種類のクリニカルパスを用いた加速的内容に従って行っている。歩行能力獲得に影響する因子として小林らは、高度な知能低下を伴う痴呆、受傷前の歩行能力、年齢、入院期間などを挙げている。今回の結果で両側例も半数は歩行が自立したが、その平均年齢は片側例に比べ高く、介助または歩行不能に留まる例ほど年齢は高かった。合併症などを有する例は歩行不能群に痴呆の合併が多かったが、治療期間・骨折型と術式などでは、片側例との比較においてばらつきがみられ、両側例が歩行獲得に影響する因子とはならず、年齢や痴呆など合併症の要因が大きいものと考えられた。 両側例や頚部以外の骨折なども多い背景として、当院周辺は中山間地域であり高齢者率も高く老人世帯も多いため、一度大腿骨頚部骨折を受傷し歩行可能になっても、退院後の日常生活での役割は多く必然的に活動性も高くなるため、再転倒しやすくなる環境と思われた。