抄録
【はじめに】Prime Walkは対麻痺患者歩行用の内側股継手付きの長下肢装具システムである。今回、発症後8ヶ月の重症脳外傷と腕神経叢上位型麻痺の合併症例にPrime Walkを用いてPTを行い、良好な結果を得たので報告する。【症例】21歳女性。診断名は、脳挫傷、脳幹損傷、びまん性軸索損傷、顔面骨折、頭蓋底骨折、下顎骨骨折、C4-6横突起骨折、四肢不全麻痺、肺挫傷である。平成13年3月15日、19才で交通事故によりJCS 300で救急病院に搬送され直ちに人工呼吸および低体温療法による集中治療が開始された。遷延性意識障害のため、4月から6月に50回、6月から11月に100回の高圧酸素療法が施行された。受傷20日後に開眼、30日後に追視と左下肢の自動運動、3ヶ月後に笑い、5ヶ月後に復唱がみられた。平成13年11月21日、リハ目的にて当院に転院となった。【初期評価】H13.9月の頭部MRIでは左優位の両側前頭葉と右側頭葉に広範な局所病変と全体的な脳萎縮が認められ、受傷時に指摘されていた脳幹・脳梁部の出血巣は不明瞭であった。右片麻痺(Br. Stage上肢2・手指4・下肢2)、左C56レベルは弛緩性麻痺を呈し、それ以下は筋緊張亢進。発動性低下、知能低下、顔面失行、運動失行により左上下肢も合目的動作困難、座位保持も不能であった。咀嚼はするが嚥下せず経鼻胃管栄養。簡単な復唱は可能だが自発言語に乏しく、従令困難で不快時は体幹を反らせて叫ぶ状態であった。自発性の指標であるS-score 0/32点、Mini-Mental State (MMS)6点、FIM18点であった。【経過】当院転院時、覚醒障害・発動性低下によりPT介入は困難であった。H13.12月、他患のPrime Walkを使用したところ2人介助で歩行練習が可能となり、その後自発語が増加し、指示による左手の模倣動作や左下肢の屈伸運動が可能となった。H14.1月、左手での電動車椅子操作開始。H14.2月から3月にTilt Tableにて坑重力下の下肢屈伸・重心移動を誘発したところ左下肢での体重支持が可能となったため、4月にPrime Walkから右LLBに変更した。8月に経口摂取可能となる。平成14年11月、右Br. Stage上肢3・手指6・下肢3、坐位バランスは良好で、電動車椅子移動は監視レベル。歩行はLLBの膝軸ロックフリーで、体幹操作により右下肢をわずかに振り出せるようになり、家族によるLLB介助歩行での外出機会も増えた。自発語は増加したが超皮質性運動失語に類似する言語症状を呈する。右手にスプーンを固定すると摂食動作が一部可能となり、S-score 11点、MMS 16点、FIM 41点と改善がみられた。【考察】腕神経叢麻痺により杖が利用できず、両側の錐体路障害と運動失行をも伴う本患に対して、Prime Walkは積極的な理学療法を可能とした。それらによる外的刺激の増加は覚醒障害と発動性を改善し、難易度を下げた高位課題の反復は失行要素の改善にもつながった。若年者の頭部外傷は長期に渡って改善する可能性があり、継続した積極的かつきめ細かいアプローチが重要だと思われた。