抄録
【はじめに】理学療法士が脳卒中片麻痺患者の歩行訓練を進める際、方向転換動作が困難なために実用的な歩行の獲得に至りにくいケースが多々ある。しかし、歩行機能の評価方法として方向転換動作を導入しているものや研究報告は少ない。我々は第24回九州PT・OT合同学会にて脳卒中片麻痺患者における方向転換動作の運動学習の困難さ及びその特徴を報告した。今回、脳卒中片麻痺患者2症例における方向転換時の特性を動作解析装置にて分析報告する。【対象】<症例1>左被殻出血・右方麻痺・女性・62歳・杖と装具使用にて屋外歩行自立・発症経過日数179日。<症例2>左視床出血・右方麻痺・女性・60歳・杖使用にて屋内歩行自立・発症経過日数137日。<健常者>男性3名・平均年齢23.7±1.5歳。【方法】三次元動作解析システムLocus MA-6250(アニマ社製・カメラ4台)を用い、サンプリング周波数60Hzにて分析した。回転方向と対側の足を第一歩目とし、180°の方向転換を三歩で終了するよう設定、両回転方向行った。指標として1)単脚支持期股関節回旋角度、2)COP軌跡、3)頭頂軌跡、4)麻痺側股関節屈曲・伸展及び内転・外転モーメント(健常者は左右股関節)を抽出した。また、方向転換時の回転中心から遠い側の下肢を遠位側、近い側を近位側とした。【健常者:結果及び考察】1)遠位側に比べ近位側での回旋が大きかった。2)・3)著明な左右動揺はなかった。4)遠・近位側共に立脚終期で伸展・外転モーメントがピークとなり、特に近位側での方向転換時の推進・側方制御機能が重要であると示唆される(遠位側:伸展62.1N、外転50.6N)(近位側:伸展86.6N、外転84.9N)。【症例:結果及び考察】1)麻痺側での回旋が乏しく、非麻痺側での代償した回旋となっている。2)・3)特に麻痺側方向への方向転換で左右の動揺が大きかった。4)〔遠位側〕立脚中期に伸展及び外転モーメントがピークとなり(症例1:伸展93.1N、外転39.2N)(症例2:伸展58.8N、外転53.9N)、立脚終期まで持続した筋出力が得られなかった。〔近位側〕立脚終期で伸展及び外転モーメントがピークとなった。しかし、健常者で見られるように近位側で高値を示すのではなく、遠位側に比べ低い値となった(症例1:伸展58.8N、外転53.9N)(症例2:伸展19.6N、外転14.7N)。以上より症例2名とも立脚終期までの安定した推進・側方制御機能が発揮できないために不安定な方向転換となることが示唆された。特に近位側では股関節が内転し身体の側方への慣性モーメントが大きくなる状況である。それに抗する側方制御機能が不十分であるために、麻痺側立脚期での回旋が乏しく、非麻痺側立脚期で回旋を補う方向転換となり出力を発揮できていないと考えられる。転倒予防を含めた方向転換動作の運動学習を今後検討していきたい。