抄録
【はじめに】患側随意運動が低下している脳卒中片麻痺患者に対して、従来からの杖-患脚-健脚による歩行パターン(以下、患側先行パターン)では患側下肢振り出しが困難となる場合が多い。これに対して、健脚-杖-患脚による歩行パターン(以下、健側先行パターン)では健側股関節を軸とした骨盤回旋を患側下肢振り出しに利用することが可能である。そこで患側下肢随意運動が低下した1症例に対して健側先行常時2点支持歩行訓練を実施し、その有効性を検討したので報告する。【症例】82歳、男性。診断名及び障害名:脳内出血、右片麻痺。現病歴:平成9年1月に発症。その後、他院で運動療法を継続し、平成14年8月より当院通所リハビリテーション開始となる。Brunnstrom Stage:上肢II、手指II、下肢IIIで、下肢は伸展運動のみ認められた。感覚:表在・深部感覚ともに重度鈍麻。歩行:長下肢装具を装着した平行棒内もしくは屋内手すり把持での介助歩行レベルで、患側下肢振り出し時に体幹過伸展による代償運動を伴った。【方法】屋内手すり把持での10m歩行において、患側先行常時2点支持歩行揃え型と健側先行常時2点支持歩行揃え型の歩行時間および歩数の測定を日を変え4回行った。さらに歩行をビデオ撮影し、両パターンの歩容を比較検討した。【結果】10m歩行の平均値は健側先行パターンで歩行時間59.7秒、歩数45歩、患側先行パターンで歩行時間69.7秒、歩数45歩であった。患側先行パターンと比較すると、健側先行パターンにおいて歩行時間は14.3%の減少率を示し、歩行スピード、歩行率はそれぞれ21.4%、17.2%の増加率を示した。ビデオ撮影による10m歩行においても、健側先行パターンでは、患側先行パターンで認められた体幹の代償運動は大きく改善し、その結果、手すり把持を必要としない手指伸展位支持で歩行可能となった。【考察】患側先行パターンでは、健側股関節を軸とした骨盤中間位からの前方回旋とそれに伴う患側股関節屈曲により患側下肢が振り出される。しかし、患側随意運動の低下した症例では、患側股関節屈曲は困難となり、骨盤前方回旋のみでは患側下肢振り出しはほとんど起こらない。その結果、本症例では下肢振り出しを強制するために、体幹過伸展の代償運動を伴う。これに対して健側先行パターンの場合、健側股関節を軸とした骨盤後方位から中間位への回旋を患側下肢振り出しに利用することが可能となり、患側股関節屈曲なしに下肢振り出しが行え、さらに体幹の代償運動が減少したと考えられる。 以上の結果から、随意運動低下例において健側先行パターンでのアプローチにより歩行能力の改善が認められ、臨床応用の可能性が示唆された。