抄録
【目的】我々は片麻痺歩行の時間因子の観察から、歩行のリズムは、二重推力支持期(患側単脚支持期から、健側との二重支持期に入り、続いて患側が蹴り出しに入る時期)の患側支持と振り出しの機能に左右されることを明らかにしている。このことから、歩行における筋機構は膝伸筋を中心とした下肢抗重力筋に加えて、歩行が遊脚へと移行する時期において患側肢の振り出しに関わる腸腰筋の働きが大切ではないかと推量される。そこで片麻痺患者の歩行における筋の働きを、特に下肢伸展位保持機構としての抗重力筋と遊脚の主体とされる腸腰筋の働きに注目して、筋電図学的に検討した。【対象】脳卒中片麻痺患者(以下片麻痺)10名、健常人(以下対照群)男性11名である。【方法】被験者の中殿筋、外側広筋、内側ハムストリング、前脛骨筋、下腿三頭筋には表面電極法を、腸腰筋には被覆された直径65μm fine wire 埋没電極法を用い、対照群と患者群の自由歩行時の筋活動を導出、Signal Basic Lightを使用して5000Hzで取り込んだ。立脚期、遊脚期を各50等分して、各分画の放電量を各筋の最大等尺収縮を基に正規化し、さらに移動平均法にて平滑化した。【結果】腸腰筋は、対照群では、遊脚開始と同時に始まる初期の急峻な中等度の活動と、遊脚後期の中等度活動の2相性を呈した。片麻痺では立脚終期にすでに活動が起こり、遊脚期前半にピークを持ち、中期から後期にかけて漸減する相動的活動が見られた。中殿筋と外側広筋は、対照群では遊脚後期に始まる放電が立脚開始と同時に増量し、立脚期中に漸減するというパターンを示した。片麻痺では立脚初期からの漸減が遅延して遊脚前期にも放電が見られた。ハムストリングは、対照群で立脚初期と終期の2相性の放電、遊脚後期に漸増する放電が見られた。片麻痺では、立脚中期から遊脚初期にかけて持続する放電が見られた。下腿三頭筋は、対照群で立脚期に漸増する放電が見られた。遊脚期では活動は認められなかった。片麻痺では立脚開始時から高度な放電が遊脚期にも見られた。総じて片麻痺では、全筋において全歩行周期に亘り、対照群より有意に大きな不適切筋放電が見られ、立脚期において腸腰筋を除く筋に、同時持続放電が見られた。【結語】1.腸腰筋は、片麻痺歩行では立脚終期から遊脚期において、相性活動を示していることから、この筋が2重推力支持期を延長する要因とは言えない。一方、2.中殿筋、外側広筋、内側ハムストリングの下肢支持に関わる3筋は持続的同時収縮によって遊脚へ移行するための下肢の協調運動を阻害すること、下腿三頭筋は立脚期の動的活動を欠いて、適切な股屈曲・膝屈曲が起こらないように阻害すること、などから2重推力支持期を遷延させる要因であることが分かった。