抄録
【はじめに】 McCarron MO(1998)は、脳出血ではアポリポ蛋白E遺伝子(APOE)ε4未保有患者の方がADLの予後が良好となり、脳梗塞ではAPOEε4は予後に影響を及ぼさないと報告しているが、理学療法領域ならびに本邦における同様の報告はみあたらない。そこで日本人脳卒中患者を対象に、APOE多型が急性期理学療法による機能的予後に及ぼす影響を検討することを目的とした。【対象と方法】 対象:2000年2月1日から2002年5月31日の2年3ヶ月の間に筑波記念病院において入院急性期理学療法後、退院した473例の中から、(1)再発例、(2)クモ膜下出血例、(3)発症8病日以上の非早期入院例、(4)ADL未評価例、(5)遺伝子解析未同意例を除外した110例(70.6±12.2歳)を対象とした。本研究は、筑波大学医の倫理特別委員会、筑波記念病院倫理委員会の承認をうけ、十分な説明を行った上で参加同意の署名を得た。方法:全対象の病型、病因、病巣部位、病巣の大きさ、血液生化学検査などの医学的診断・検査を行った。理学療法開始時と退院時に機能的自立度(FIM)の評価を行い、FIM変化量、回復効率を算出した。遺伝子解析は同意を得た患者の末梢血から採血を行い、PCR-RFLP法によりAPOE多型の解析を行った。APOE多型によるFIM変化量に加え、GOS、回復効率などをソフトウェア「Stats View 5.0」を用いて統計学的に検討した。【結果】 APOE多型のgenotype頻度は、E2/3:10例(9.1%)、E2/4:1名(0.9%)、E3/3:86例(78.2%)、E3/4:12名(10.9%)、E4/4:1名(0.9%)であり、allele頻度はε2 0.050、ε3 0.882、ε4 0.068であった。FIM回復効率はAPOEε4保有群0.9±0.7点、非保有群0.6±0.5点であった(p=0.056)。FIM回復効率を従属変数、年齢、性別、APOE多型、OCSP、発症から理学療法開始までの病日、開始時非麻痺側下肢筋力、GOT、血小板数の8変数を独立変数としたステップワイズ回帰分析では、発症から理学療法開始までの病日とAPOE多型の2変数が採用された。従属変数をFIM回復効率、独立変数を発症から理学療法開始までの病日とAPOE多型としたロジスティック回帰分析では、APOEε4保有群の良好なFIM回復効率に対する年齢、性、発症から理学療法開始までの病日で調整後のオッズ比は1.6(95%Cl:0.4-5.8)であった。【考察】 APOEε4保有患者の方が急性期理学療法における回復効率が良好であった要因として、(1)年齢、(2)脳卒中重症度、(3)開始時機能障害、(4)急性期理学療法患者のみが対象、(5)栄養状態・全身状態、(6)血管内皮細胞・血管内壁機能が考えられた。