理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: EO835
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成人中枢神経疾患
脳卒中片麻痺患者における肩甲骨回旋角度と肩関節亜脱臼の関係
*小林 英司妹尾 忠久吉尾 雅春
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抄録

【目的】BasmajianやCaillietは、棘上筋や三角筋の機能低下に加え、肩甲骨の下方回旋に伴い関節窩が下向きになることが片麻痺患者における肩関節亜脱臼の原因となりうると指摘している。彼らによれば、上向きの関節窩は上部関節包の張力を補助し、“肩関節の固定機構locking mechanism”(Basmajian)として機能し、肩関節亜脱臼を防止すると述べている。この見解に基づきDaviesは肩関節亜脱臼の治療には肩甲骨を上方回旋位に正すことを勧めている。本研究の目的は、片麻痺患者における肩甲骨下方回旋角度と肩関節亜脱臼の関係の検討にある。【対象・方法】健常群30名、男20名女10名、平均年齢22.4±3歳と、臨床的に亜脱臼を持つ者を含む片麻痺患者群30名、男20名女10名、平均年齢68.2±10歳、発症後平均35.9±51か月を対象とした。全ての測定は、上肢を自然下垂位とした座位で実施した。肩甲骨下方回旋角度は肩峰と下角を結ぶ線と垂線とのなす角とし、画像解析ソフト(Scion Image)にて測定した。亜脱臼の程度は、肩甲骨を固定し、肘関節を110°屈曲位に保った状態で検者が被検者の上腕部を把持し、徒手的に上腕骨頭を肩峰下に衝突させたときの上腕骨の垂直移動距離で表した。上腕骨垂直移動距離(亜脱臼の程度)の測定には測定法の検者内信頼性が高いことを確認された特製の装置を用いて非侵襲的に実施した。分析には3回測定の平均値を用いた。各群の差の検定には一元配置分散分析、相関係数はピアソンの相関係数を用いた。有意水準は全て5%とした。【結果】(1) 肩甲骨下方回旋角度:健常群は右側平均36.1°、左側36.8°で有意な左右差はなく、片麻痺群においても非麻痺側-麻痺側間で有意な差はなく、両側とも平均28.7°であった。(2) 上腕骨垂直移動距離:健常群は平均右7.7mm左7.5mmで有意な左右差はなかったが、片麻痺群では麻痺側平均14.1mm、非麻痺側9.3mmで、麻痺側で有意に大きな値を示した。(3) 健常群、片麻痺群ともに肩甲骨下方回旋角度と上腕骨垂直移動距離の間に相関関係は見られなかった。【考察】肩関節亜脱臼を持つ片麻痺患者の肩甲骨は一概に下方回旋位とは言えず、Basmajianの提唱する“locking mechanism”が肩関節亜脱臼を防止する可能性は低いと言える。臨床場面においては、肩関節亜脱臼を持つ患者の麻痺側肩甲骨が下方回旋している(下がっている)という先入観を持つことなく個々の症例に関わることが重要と思われる。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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