抄録
【はじめに】片まひ者の歩行能力は、環境や身体機能などの様々な因子により決定付けられる。各因子と歩行能力の関係を明らかにしていくことは、歩行を困難にしている原因を明確にし、適切な理学療法を行う上で必要な情報となる。さらにこれらの因子が定量化できるならば、理学療法効果の判定や予後の予測などにも、応用の可能性が広がると考えられる。本研究では、片まひ者の実用的歩行能力と下肢支持性の関係に着目し、健側下肢の支持性は膝伸展筋力を、まひ側下肢の支持性は最大荷重量にて表すこととして、健側膝伸展筋力とまひ側荷重量を計測し、歩行能力との関係をみたので報告する。【対象】当センター外来・入院・更生施設にて理学療法を施行中の脳卒中片まひ者の内、著しい高次脳機能障害を伴わない者30名を対象とした。内訳は右片まひ14名・左片まひ16名、Br.StageIIIからV、男性22名・女性8名、平均年齢52±10.4才、発症からの期間は平均11±8.6ヶ月であった。理学療法実施期間中に変化が見られた対象者は複数回、測定を実施した。総データ数は44件であった。【方法】対象者の健側膝伸展筋力の計測は、日本メディックス社製徒手筋力測定器MICRO FETを用いて計測し、体重比であらわした。まひ側荷重能力は、片脚ずつの荷重量の計測が可能な酒井医療製リムローダーLLD-2100を用いた。測定の際、膝を過伸展した状態での荷重を避けるため、膝関節は軽度屈曲位とし、手すりを把持した状態でまひ側に体重を移動し、3から5秒間保持可能な荷重量をまひ側最大荷重量とした。歩行能力の分類は、宮崎らによる実用的歩行能力の分類を用いた。自立度の判断は、病棟・施設・自宅などでの実際の移動形態と身体能力をもとに、担当理学療法士が判断して決定した。【結果】まひ側荷重量と健側膝伸展筋力を、それぞれ縦・横軸にとり、実用歩行能力ごとにグラフにプロットすると、その集団は大きく屋外自立群(実用的歩行能力の分類1から3)、屋内自立群(分類4)、屋内介助群(分類5)の3群に分けられ、各群の分布は概ね次のようになった。屋外自立群、屋内自立群のいずれも、健側膝伸展筋力は0.9Nm/kg以上であり、その内、まひ側荷重量が70%以上(80.8±6.7%)の範囲に屋外自立群の全てが含まれており、屋内自立群は50から70%の範囲(64.5±11.5%)に多くが分布していた。屋内介助群(分類5)は、膝伸展筋力が0.9Nm/kg未満か、またはまひ側荷重量が50%以下の範囲に分布していた。【考察】片まひ者の下肢支持性を、健側膝伸展筋力とまひ側荷重能力で定量化することにより、歩行自立度と下肢支持性の間に、一定の傾向があることが伺われた。今後さらにデータを蓄えて、ある程度の基準値が明確に出来れば、理学療法の効果判定や到達能力の予測、歩行能力低下の原因特定などの際に応用することができる可能性がある。