抄録
【はじめに】 浦川らは健常者のAuto-estimatics評価における運動認知能力を検討し、跨ぎ課題において見積り値/下肢長(以下ED)と実測値/下肢長(以下AD)の比がほぼ1となり、年代による差はないと報告している。また片麻痺患者において田上らは、ED/AD比は屋外歩行群に比べ屋内歩行群が過大評価する傾向があるとしている。視空間の認知については左右半球においてその機能が異なることが示唆されているが、本課題についての左右差については検討されていない。本研究の目的は、跨ぎ課題において片麻痺患者での障害側の違いによる運動認知能力の特徴を明らかにすることである。【対象及び方法】 対象は同意、及び協力が得られた健常者9名(平均年齢69.4歳)と片麻痺患者12名(平均年齢66.8歳)とした。片麻痺患者に関しては歩行可能レベルの者とした。まず、最大の一歩(実測値)を3回測定し、実測値の最大値を基準値(目盛り0)とした。自作またぎ課題測定器を用い、基準値から2cmきざみで-6から+20cm間における“またげる”“またげない”の判断を2件法で求めた。提示順序は各値を5回ずつ、計70回無作為抽出にて行い、推測値を下肢長(大転子から足底)で除すことにより体格差を補正した。健常者‐片麻痺患者間、さらに右片麻痺患者‐左片麻痺患者間でED/ADの値および判断率の変化を比較した。【結果】 同一の条件に対し“またげる”と判断した割合が50%を超える点を視知覚的転換点(見積り値)とし、健常者・片麻痺患者の2群を比較した結果、2群共に過大評価傾向であったが、片麻痺群においてその傾向はより顕著であり、2群において有意差が認められた(p<.05)。さらに片麻痺群を左右の障害側に分けて比較したところ、有意差はなかったものの左片麻痺群では見積り値より大幅に増減した距離の判断は一定かつ正確であったが、見積り値付近での判断にばらつきが大きくなっていた。これに対し右麻痺群では左片麻痺群に比べ過大評価傾向ではあるが、見積り値を境に判断に統一性が見られた。【考察】 空間認知能力は右半球優位であり、幾つかの課題において左片麻痺患者の方が右に比べて視空間認知能力が低いことが指摘されている。しかし今回、跨ぎ動作の空間認知能力に関して、左片麻痺患者に比べ右片麻痺患者の方がより自己の身体運動能力に関する空間認知を過大評価するという結果が得られた。これは今回の条件が矢状面方向の空間認知に関するものであった影響も考えられる。左片麻痺患者は跨ぐという実際の動作で問題となる見積り値付近での判断に統一性がなく、実際には問題とならない距離においての視空間認知は正確であった。今後症例数の増加や病状との関連についてさらなる検討が必要と思われる。