理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: EP583
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成人中枢神経疾患
片麻痺患者の坐位姿勢における坐骨と軟部組織のアライメントが立ち上がり動作に与える影響
*佐久間 敏広渡 一隆荒尾 雅文宮下 有紀子
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キーワード: 片麻痺, 坐骨, 軟部組織
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抄録

【はじめに】片麻痺患者の立ち上がり動作は,動作前の坐位姿勢がそのパフォーマンスに大きく影響することを経験する.坐位保持のために必要な感覚情報は多々あるが,外界と直に接触している支持面からの感覚情報が特に重要であると考える.そこで支持面を構成する片麻痺患者の坐骨と軟部組織の状態に焦点をあて,坐骨と軟部組織のアライメントがどのようになれば立ち上がりやすいのか検討したので報告する.【対象】片麻痺患者18名(足底非接地坐位が可能・健側膝伸展筋力MMT4以上).内訳は右片麻痺8名・左片麻痺10名で,平均年齢は67.1±20.9歳であった.【方法】ガラス板の上に両膝内側が接するように両側下腿を固定し,自身で垂直と感じる足底非接地坐位を手すり(坐面からの高さ20cm)に捉まった状態で保持させた.そしてガラス越しに支持面の状態測定を行った.坐骨と軟部組織のアライメントを示す変数は以下の方法で算出した.両側大転子を結んだ直線(以下L)と軟部組織のガラス板との接触部位外周との交点をA(左側)・B(右側),左坐骨を通りかつLに対する垂線をM,右坐骨を通りかつLに対する垂線をN,MとLの交点をC,NとLの交点をDとし,ACとBDの距離を計測し,麻痺側から健側を引いた値Xを求めた.次に足底接地できる台を設け,この環境下で立ち上がりを行わせ,立ち上がり可能な群(以下可能群)と不可能な群(以下不可能群)に分別した.そして2群間においてXの平均値の差をt検定によって比較した.またこの測定方法の精度を確認するために,健常者10名(以下健常群)を同様の方法で計測した.【結果】健常群のXの平均値が0.0cm,標準偏差(以下SD)が0.44となり,測定方法の信頼性が確認できた.片麻痺患者においては,可能群のXの平均値は1.81cm,SDは0.68で健側が短くなり,不可能群のXの平均値は-0.58cm,SDは1.31と麻痺側が短くなる傾向となり,立ち上がりの可能群と不可能群の間に有意差が認められた(p<0.005).可能群は9例全て健側が短くなり,不可能群は9例中7例麻痺側が短くなり,2例健側が短くなった.【考察】不可能群のXは麻痺側が短くなり,軟部組織上を坐骨が麻痺側にズレてしまう傾向があると考えられる.片麻痺患者が発症前と同じ様に坐れば,麻痺側は支持性が低下しているため,軟部組織と支持面の接触部位は同じでも坐骨は軟部組織上を麻痺側にスライドすると推測でき,この感覚入力が動きづらい姿勢を構築していると考えられる.逆に可能群のXは健側が短くなり,軟部組織上を坐骨が健側にスライドしていると考えられ,この感覚入力は麻痺を呈していながらも動きやすい姿勢であるための必要条件ではないかと推測する.以上のことから,片麻痺患者に対する運動療法の展開には坐骨と軟部組織のアライメントの調整が重要であると考える.

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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