抄録
【はじめに】脳卒中片麻痺患者において,洗身動作は自立困難な動作である。特に麻痺側上肢の実用性が低い患者では背部,非麻痺側上肢等,介助を受けていることが多い。そこで今回,我々は一側上肢のみで全身の洗身が可能な洗身用輪状タオル(以下輪状タオル)を考案し,実際に片麻痺患者に使用してもらい,その有用性を検討したので,ここに報告する。【材料および作成法】市販の洗身タオル2枚を1本の輪になるよう縫い合わせる。タオルの長さは,タスキのように肩にかけて少し余裕のある程度にする。【使用方法】a.健手で届く範囲の洗身:輪状タオルを健手で把持し洗身する。b.背部の洗身:輪状タオルを首からタスキのようにかけ,左右斜めに引いて洗身する。c.非麻痺側上肢の洗身:上腕外側はbと同様に輪状タオルをタスキのように非麻痺側上腕にかけ洗身する。手・前腕・上腕内側は,麻痺側の手や非麻痺側大腿部,体幹に輪状タオルを巻き,そこに非麻痺側上肢をこすりつけ洗身する。d.足底部の洗身:足底部に手が届かない場合,輪状タオルを足底部にかけ,左右に引いて洗身する。【調査】両上肢を用いての洗身が困難であり,十分安定した坐位のとれる脳卒中片麻痺患者15名(平均年齢64.1±14.7歳,平均胸囲90.3±4.1cm)を対象に,輪状タオルと一般的な洗身ブラシを使用してもらい,質問紙によるアンケート調査を実施した。調査内容はそれぞれにおいて,洗い心地,使い易さ,洗剤の残り具合を5段階で評価し,それも加味して100点満点で主観的な採点を行ってもらった。又,洗えなかった部位も調査した。【結果】普通のタオルでは全員独自で洗えなかった背部と非麻痺側上肢で,各々12名,6名の対象者が輪状タオルの使用により洗身可能となった。このことから輪状タオルの有用性が確認されたが,洗身が困難だった対象者から,使用法の説明図の様には上手く使えなかったという感想が得られ,使用前の十分なオリエンテーションの必要性が示唆された。また,洗身ブラシとの比較では,洗い心地,使い易さ,洗剤残りの5段階評価に有意差はなく(タオル:3.8-3.9/5,ブラシ:3.4-3.5/5),主観的採点は双方とも76.7/100点であった。しかし,使用後に得られた感想から,洗身ブラシでは刺激が強く洗浄困難な陰部・肛門部の洗身が輪状タオルでは可能であることや,背洗いにおいて比較的力を必要とせず,洗身が容易であるなどの利点が確認された。また問題点としては,輪状タオルを首にかける際,頭部に洗剤がつきやすいことがあげられ,洗髪を後で行う等対処の必要があることがわかった。尚,長さは,今回の対象者の場合周長120-125cmが概ね使用に適していた。【おわりに】片麻痺患者の障害像は様々で,最適な洗身道具はそれぞれ異なる。個々に応じた洗身用自助具のひとつとして役立てて頂きたい。