抄録
目的
今回喘息発作による呼吸不全患者に対して呼吸理学療法を実施した症例を通じ、呼吸理学療法の効果と救急医療における理学療法士(以下PT)の役割について検討したので報告する。症例
79歳、男性。1984年気管支喘息発症。外来にて治療を継続していたが、発作時には入院治療を必要とすることも多かった。今回の喘息発作は痴呆症状で入院中の 2002年9月17日15時頃に起こした。薬物療法としてヒドロコルチゾンの静注、ボスミン皮下注射を行ったが症状改善せず、徐々に呼吸状態悪化し、16時12分の動脈血液ガス分析(以下BGA)でpH6.979、PaCO2 97.2Torr、PaO2 39.0Torr(O2鼻カニューラ3l/分)であった。16時15分PHSにてPTが病棟に呼ばれた。以後呼吸管理は医師2名、PT1名、看護師2名、臨床工学士1名で行った。PTが病棟到着時、意識は軽度せん妄状態、呼吸数12回、高度の低換気により喘鳴もほとんど聴取できない状態であった。PTは患者をファーラー位とし、口すぼめ呼吸を指導しながら、上部胸郭および下部胸郭に呼吸介助手技を実施した。呼吸介助手技開始から20分後のBGAではpH7.145、PaCO2 62.2Torr、PaO2 146Torr(O2インスピロン100%、10l/分)と改善した。その後、胸部レントゲン写真にて心不全も確認し、心不全の治療を行いながら非襲侵的陽圧換気(以下NIPPV)を導入した。しかしマスク装着時患者が興奮状態となったため軽度のsedationを実施し、NIPPVを呼吸介助手技と併用し継続した。呼吸介助手技開始から約1時間後、ほぼNIPPVと同調し、経皮的酸素飽和度の改善と聴診での換気の改善を確認し呼吸介助手技を終了とした。翌日にはNIPPVからも離脱した。予後は生存であった。考察
呼吸理学療法、特に呼吸介助手技の肺胞低換気、酸素化の障害に対する効果については既に諸家により報告されている。しかしその多くは慢性呼吸不全患者や周術期の患者への適用であり、本症例の様な急性呼吸不全患者に対する救急医療でのPTの報告は少ないのが現状である。本症例については臨床症状とBGAの評価から呼吸介助手技が急性呼吸不全の改善に有効であったと考えられる。
また近年急性呼吸不全に対するNIPPVの適応が広がり、呼吸管理の方法が進歩していく中で、PTが呼吸ケアチームの一員として求められる役割も増加してきている。PTが急性呼吸不全の救急医療に参加出来にくい要因として勤務体制や人員不足、PTの呼吸器疾患に対する知識不足、医師の認識不足等の問題が山積している。しかし今後このような救急場面に積極的にPTが関わり、更に多岐にわたる疾患の症例検討を積み重ねることが、急性呼吸不全に対するEBPTを確立するために必要と考える。