抄録
【はじめに】昨年の本学会において、VE-VCO2 slope(VE:分時換気量を横軸、VCO2:二酸化炭素排出量を縦軸とした回帰直線の傾き)の有用性について報告した。そこで今回は、心筋梗塞症例で心機能を新たに開発された再現性の高い定量的心拍同期SPECT(QGS)で左心機能を測定し、心肺運動負荷試験(CPX)で得られるVE-VO2 slope(VE:横軸、VO2: 酸素摂取量を縦軸とした回帰直線の傾き)と左心機能の関連を検討した。【対象と方法】対象は急性心筋梗塞症例35例(男性34例、女性1例、平均年齢55±7歳)で、第7病日以内の急性期にBMIPP/Tlの二核種安静時心筋シンチグラフィ(急性期)を、3から6ヶ月後の慢性期にTc-tetrofosmin安静時心筋シンチグラフィ(慢性期)をQGSで撮像し、左室の拡張末期容積(EDV)、収縮末期容積(ESV)および駆出率(EF)を求めた。CPXは退院時(発症後1ヶ月)の時点で症候限界性にトレッドミルを使用して実施し、運動負荷開始から呼吸性代償ポイント(RC point)までのVEとVO2、およびVCO2を測定した。分析は、_丸1_?VE-VO2 slope とVE-VCO2 slopeの比較、_丸2_VE-VO2 slopeと左心機能(急性期、慢性期)を比較検討した。【結果】_丸1_CPX で得られたVE-VO2 slope とVE-VCO2 slopeは、両者の間に有意な正相関を示した(r=0.89,p<0.0001)。すなわち、VE-VO2 slopeはVE-VCO2 slopeと同様に有用な指標である可能性が示された。_丸2_VE-VO2 slopeと急性期のEDV(r=0.35,p<0.04)およびESV(r=0.41,p<0.01)とは各々有意な相関を認めたが、EFとは相関を認めなかった(r=-0.32,ns)。またVE-VO2 slopeと慢性期のEDV(r=0.48,p<0.004)、ESV(r=0.53,p<0.001)、およびEF(r=-0.62,p<0.0001)とは各々有意な相関を認めた。すなわち、VE-VO2 slopeは慢性期の左心機能と有意な相関を認めた。【考察】呼気ガス分析指標としてのVE-VCO2 slopeは、運動時の心拍出量の増加を反映していることや、最高酸素摂取量と共に生命予後との関連性が報告されている。またVE-VO2 slopeはVE-VCO2 slopeとの関連が報告されており、同様な結果となった。今回の結果より、VE-VO2 slopeと左心機能の関連は慢性期に有意な相関を認めたことから、VE-VCO2 slopeと同様に左心機能の推移(例えばリモデリングによる左心機能低下など)が予測できると考えられた。それにより、VE-VO2 slopeは運動処方、特に運動強度の設定方法などにおいて重要な一つの因子になることが示された。【結論】CPX(退院時)で得られるVE-VO2 slope は、VE-VCO2 slopeと同様に慢性期の左心機能と関連を示した。