抄録
【目的】本研究の目的は長期脊髄損傷者における安静時および運動時のエネルギー代謝特性を検討することである。【対象】2カ所の労災リハビリテーション作業所にて生活および軽作業に従事する脊髄損傷者のうち、本研究に関する説明により同意の得られた23名を対象とした。全員男性で測定時の年齢は61.7±10.2歳、体重は3年前の記録では54.1±8.8kg(BW1)、測定時では56.2±9.8kg(BW2)、受傷からの経過期間は727±180ヶ月で、損傷部位は胸髄が14名、腰髄が5名、不明が4名であった。
【方法1(安静時呼吸代謝)】前日に説明と合意の得られた16名を対象とし、翌朝起床後30分間の安静を保持した後、その状態で呼気ガス分析装置(ベルテック社製K4)を用いて5分間、酸素摂取量をbreath by breath にて測定した。
【方法2(運動負荷試験)】腕エルゴメータ(Monark社製)を用い運動負荷試験を行った。充分な安静の後、3分間、0ワット、40rpmのクランク運動でウォーミングアップを行った。続いて3分毎に5ワットづつ漸増させる多段階運動負荷を行った。心電図モニターで心拍数、心電図を記録し、方法1と同一の呼気ガス分析装置を用いて酸素摂取量をbreath by breath にて測定した。1分毎にボルグスケールにて自覚的運動強度を測定した。また安静時、運動負荷試験終了直後、および終了10分後に血圧を測定した。運動負荷試験の中止基準は自覚的限界および他覚的所見の出現とした。Pearsonの相関係数を用いて検定し、有意水準を5_%_と設定した。
【結果と考察】3年間の体重変化率(=(BW2-BW1)/BW1)と年齢とは有意な負の相関関係(r=-0.449、p<0.05)が認められた。安静時代謝(RMR)は3.20±0.75mlO2/min/kg であった。RMRと受傷期間との相関係数は-0.26で有意差は認められなかった。これは若年層での体重増加と中高年での体重減少が、体重で補正したRMRに影響を及ぼしたと示唆される。腕エルゴメータ運動負荷試験により得られた最大酸素摂取量(VO2max)は18.13±5.1175mlO2/min/kgであった。健常者を対象とした先行研究との比較では長期脊髄損傷者の方が低い傾向があるものの有意な差は認められなかった。上肢筋に依存する本運動負荷様式では、両者において動作筋の末梢循環と酸素代謝に差がないためと考えられる。受傷期間とVO2maxとの関連では負の弱い相関(r=-0.285)があったが、統計学的有意差は認められなかった。受傷期間が遷延化する中での体重減少は加齢に伴う要素が考えられるものの、本対象群における栄養士によるカロリー管理と上肢活動に依存する日常生活および作業による上肢筋活動の継続がこのような結果をもたらしたものと考えられる。