理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: AO005
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主題(科学的根拠に基づく理学療法)
高次神経機能障害例に対する理学療法の実態調査
*網本 和柳沢 健金子 誠喜池田 由美神尾 博代渡邊 修
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抄録

はじめに:近年リハビリテーション医療において、対象となる症例の障害はますます多様になり重度重複化をきたしていることは周知のことである。なかでも脳血管障害や頭部外傷などの脳損傷例に伴う高次神経機能障害は評価治療の困難さから、その対応が焦眉の課題となっている。しかし様々な高次神経機能障害例に対してどのような治療対応がなされているかについては、必ずしも充分に明らかではない。Evidenceに基づいた効果的治療を開発提供するためにはまずどのような治療が実施されているかを把握することが重要である。そこで今回われわれは本邦における高次神経機能障害例に対する理学療法の実態を把握することを目的として全国調査を実施したので報告する。調査対象:全国の理学療法士協会会員データベースから、会員が5名以上在籍する1872施設を対象とした。調査期間は平成14年9月から10月である。調査方法:往復はがきによる郵送法にて、対象施設の取り扱い疾患、主な治療対象となる高次神経機能障害の種類、それらのうち対応に苦慮している症状について調査した。結果:1872施設中回答が得られたのは998施設、回収率は53.3%であった。これらのうち教育機関、小児関連施設を除いた921施設を分析対象とした。取り扱い疾患(重複回答)は脳血管障害が701件(76.1%)と最も多く、次いで整形外科疾患672件(73.0%)、パーキンソン121件(13.1%)、関節リウマチ99件(10.7%)、呼吸器疾患90件(9.8%)であった。主な治療対象となる高次神経機能障害の種類(重複回答)は、治療対象となる頻度が高いものの順に、痴呆556件(60.4%)、失語症238件(25.8%)、半側空間無視115件(12.5%)、失行症35件(3.8%)、その他27件(2.9%)であった。対応に苦慮している症状として挙げられた症状は、痴呆395件(56.9%)、失語症101件(10.9%)、半側空間無視164件(17.8%)、失行症115件(12.4%)、その他154件(16.7%)であった。その他の症状の内容は、注意障害が32件と最も多く、Pusher現象23件、前頭葉症状15件、記憶障害14件、意識障害12件、右半球症状8件などであり上記症状の重複を指摘する報告も認められた。考察:理学療法の治療過程において最も頻度が高く対応に苦慮している症状は痴呆でありその困難性が描出されたものといえよう。また半側空間無視、失行症は頻度が比較的低いにもかかわらず、苦慮している事が多く、これらの症状が存在した場合には理学療法治療での課題があるものと推察された。その他の症状の内容分析からは、注意障害を中心として行動にかかわる症状が多く指摘されており、この点についても対応の工夫が求められていると考えられた。以上の調査に加え、現在詳細な2次調査を施行中であり、それらの結果についても報告する予定である。

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