抄録
【はじめに】平衡機能は感覚系,中枢制御,筋出力などが関係している.また外部からの刺激に対しても安定性を維持するために多くの反射や反応が関与している.そこで今回我々は外観上に異常歩行を認めない程度の1cmの補高においてどのような反応が起こっているのかを重心動揺と筋電図を用い検討し,その変化,特徴を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】対象は健常若年女性6名,平均年齢 23±2.6歳.重心動揺はアニマ社製重心動揺計GC3000を用い,平地自由歩行後に裸足閉足直立位にて1分間,開眼・閉眼の順に測定した. その後エチレンビニールアセテートにて1cmの補高を右側に施し5分間平地自由歩行を行い,同様にして重心動揺を測定した.測定項目として,総軌跡長,単位時間軌跡長,重心動揺中心を補高前後で比較した.さらに平地自由歩行と補高歩行時に表面筋電図を日本光電社製マルチテレメータシステムWEB5000を用い測定し,筋電図積分値を求め,平地自由歩行にて正規化した(%iEMG).表面筋電図の導出筋は左右の中殿筋,大腿四頭筋,前脛骨筋,腓腹筋とし,安定した6歩についてデータを算出した.サンプリング周波数は1000Hzとした. 統計処理にはWillcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準は5%とした.【結果】補高後の重心動揺中心は,開眼6名,閉眼5名が補高側に変位し有意差を認めた. 補高後の%iEMG(右/左)は,中殿筋113.4±30.7 /100.5±22.5,大腿四頭筋96.5±46.4/124.6±46.2,前脛骨筋84.1±17.1/94.42±20.9,腓腹筋92.3±18.0/98.68±24.2であり,そのうち左中殿筋,左右大腿四頭筋,右前脛骨筋,右腓腹筋において補高前後有意差を認めた.【考察】立位姿勢保持を行い,直立二足歩行を行うには,抗重力筋活動や姿勢バランス保持のための多くの反射が働いている.今回の重心動揺結果から開眼6名全員,閉眼5名が補高側へ重心動揺中心が変位し有意差を認めた.そして%iEMGで有意差のあった導出筋のうち補高側の大腿四頭筋,前脛骨筋,腓腹筋の平均値が低下し,非補高側の中殿筋,大腿四頭筋は増加傾向を示した.このことは,補高1cmにより左右方向へのバランスがくずれ,立位姿勢時の補高側へ重心を移動,補高歩行時の補高側の抗重力筋の筋収縮減少,非補高側の収縮増大という姿勢制御反応が起こった結果と考えられる. 今回1cmというわずかな外部からの刺激に対しても,重心動揺中心の変化,筋収縮の増減が明らかになった.今後時間経過に伴う変化,歩行周期を切り分けた検討が必要と考える.