抄録
【目的】背臥位からの立ち上がり動作(立ち上がり動作)の立ち上がり過程を観察したり,所要時間を測定する評価方法がある。中村ら(1982)に従って立ち上がり過程を分類すると,所要時間や加齢,肥満度,各種パフォーマンス能力と関連する傾向はあるものの,統計的に有意な差は認められない(星ら,1990)。立ち上がり過程は身体機能だけでなく,個人の身体形態や動作の習性・慣れなどによっても影響を受けるだろう。従って,基礎的な情報として,様々な立ち上がり過程により所要時間がどれくらい異なるか知っておく必要がある。そこで健常者を対象として,いくつかの立ち上がり方法を設定して行わせ,所要時間へどのように影響するか検討した。【対象と方法】対象は健常人42名(男17名,女25名;平均年齢23.1±3.3歳)である。被検者は床に敷いたウレタン製マット(縦横2×2m)の中央に背臥位となり,検者による測定開始の合図と同時に,後述する任意の過程で,できる限り速く立位にさせた。立位は背臥位での頭側を向くように統一した。あらかじめ,マットのほぼ中心部に立つことと,一度立位となったら静止立位を保持することを指示した。静止立位を約5秒間保持してから測定終了とし,その間に大きくバランスを崩すような動作が観察された場合は再測定した。立ち上がり過程は中村ら(1982)を参考に1)片肘をついた起き上がり,2)四つ這い位,2)長坐位,4)片膝立ち位,5)台(高さ40cm)につかまる,6)しゃがみ位,を必ず経過する6種類の方法で行わせ,施行順序はラテン方格により均等に割り付けた。所要時間の測定は,測定に習熟した検者(演者)1名で行った。測定開始から静止立位までの時間をストップウォッチでそれぞれ3回繰り返し測定し,平均値を求めた。立ち上がり過程が指示通り遂行されたか確認するために,ビデオカメラで記録も行った。【結果】反復測定による多重比較法(Tukey-HSD法)で平均値を同時に比較すると,1)片肘をついた起き上がり,2)四つ這い位,3)長坐位,4)片膝立ち位,5)台につかまる,6)しゃがみ位の順に,有意(p<0.01)に所要時間が短縮した。測定誤差を考慮して,差の95%信頼区間下限値が0.1秒以上となる場合に“差がある”とすれば,1)から2),3),4)から6)のそれぞれで差があった。なお,ビデオカメラの記録では,全て指示した立ち上がり過程で行われたことが確認できた。【考察】若年健常者の多くは,しゃがみ位を経過する立ち上がり過程をとる(対馬,2002)ため,最も行い易く,速かったと考える。台につかまる方法は上肢の補助が働いて速かったのだろう。体幹を回旋して起き上がる1)と2)の方法では,仮に身体機能がほぼ同じ対象でも所要時間は遅くなる可能性がある。実際の評価では,いくつかの立ち上がり過程を行わせて評価することも必要である。