抄録
【はじめに】臨床上行われている位置覚検査は四肢を他動的に一定の位置まで動かし、その角度を対応する対側肢で模倣させ、関節角度の差異より障害度を判断する。しかし、本来必要とされる位置覚の情報は動作に対応しうるものであり、床上で行われる検査情報では動作への影響を判断するには十分ではない。そこで、日常的に行われる立ち上がり動作を用いた位置覚の測定を試み、測定により得られた値を健常者との比較により検討した。【対象】当院入院中でTKA施行目的の膝OA患者14名(膝OA群)を対象とした。また、両下肢に障害を有さない健常高齢者16名(健常群)を比較対照群とした。【方法】測定に使用した椅子は脚部の高さが変更可能であり、椅座位姿勢において股関節屈曲80°になる様に高さを調節した。椅子前縁に大転子が位置するところで対象者に椅座位姿勢をとらせ、膝伸展位から立ち上がりやすい角度まで膝を屈曲して立ち上がるように指示を与えた。床反力計にて重心の前方移動が開始される瞬間を確認し、その時の膝関節角度を三次元動作解析装置にて記録し、目標角度として設定した。続いて、立ち上がったときの角度まで膝関節角度を再現するように指示を与え、膝関節角度を計測した。角度の再現は、椅座位姿勢での膝伸展位から膝屈曲動作までとし、実際の立ち上がりは行わせなかった。算出項目は、実際の立ち上がりで与えた目標角度と膝屈曲で再現させた角度との差とした。【結果】開眼時の立ち上がりと膝屈曲の誤差は、膝OA群で4.93±2.41°、健常群で2.14±2.22°であった(p<0.01)。閉眼時の立ち上がりと膝屈曲の誤差は、膝OA群で5.39±4.78°、健常群で2.49±1.57°であり(p<0.05)、開眼時および閉眼時において膝OA群では高齢群に比べて再現性が有意に低下していることが認められた。【考察】膝OAにおける位置覚を調査したこれまでの報告において、OA群では非術側とTKA側では有意差が認められたとされているが、他動運動での報告は再現性に劣り、計測値のばらつきも大きくなるとの指摘がある。一方、自動運動での計測は、より生理的であり、再現性があるとされているが、それらの多くは一定の決められた角度への再現性をみているものが多く、日常の動作とは乖離している点が問題であった。本研究では、立ち上がり動作を用いて再現する角度を対象者ごとに設定したことにより、動作との関わりを強めた計測が行えたと考えられた。また、健常成人を対象としたopen kinetic chain(OKC)とclosed kinetic chain(CKC)で比較した位置覚の再現テストではCKCの方が正確な再現性を示したとの報告があり、その要因として膝関節位置覚はCKCにおいて正確に機能することや隣接関節からの情報が追加されたためであると推測された。本研究ではCKCで行われる立ち上がり動作においてさえ、OA群で位置覚の再現性が低下していることを明らかとした。今後さらに臨床において有用な位置覚検査を検討していくことが重要であると考えられた。