抄録
目的:臨床的な立位動的バランスの簡便な評価方法として、Duncanらによって提唱されたFunctional Reachは、運動障害の評価のみならず、高齢者の介護予防の領域でも活用されるようになった。しかし、このFunctional Reach の値(以下FR値)の加齢による変化に関する報告は少ない。そこで今回、障害を有しない人々におけるFR値を横断的に測定調査し、加齢による変化の実態を明らかにするとともに、Duncanの原法である片手での測定と両手での測定による結果の相違について検証することを目的として研究を行った。対象と方法:整形外科的疾患や神経学的疾患を有しない、一般地域住民に協力を依頼し、同意の得られた780人(男359人、女421人、年齢8歳から85歳)を対象としてデータ収集を行った。FR値の測定にあたっては、精度を高めるために、試作した専用のスライド式測定スケールを使用した。測定は裸足立位で上肢を90゜前方挙上し、踵を上げずに手を前に伸ばしてスケールのスライドプレートを指先で押させ、最遠到達点を読み取った。スケールに体が触れたり、踏み出したりした場合のデータは採用せず、再測定とした。「両手」、「片手(利き手)」の順に各3回ずつ測定し、平均値をもって測定値とした。また身長との関連性をみるために身長も計測した。結果:男女とも、片手測定よりも両手測定の方が、値は小さいものの、ばらつきは少なかった。両手測定の場合、男女とも20代から50代までは大きな変化はなく、男性で36cm台を、女性で35cm台を維持する。女性では40代後半から低下傾向が現れ始め、50代で33cm、60代で31cm、70代以降は28cmまで低下する。一方男性では40代まで36cm台を維持するが、50代から低下し始め、女性同様、70代以降は31cm台まで低下する。Pearsonの相関係数では、年齢とFR値の間に有意な負の相関(r=-0.298から-4.11,p<0.01)が見られた。身長とFR値にも有意な負の相関(-0.4から-0.455)がみられたが、これには年齢と身長(男性-0.299、女性-0.435)との疑似相関が疑われた。曲線の当てはめを行った結果、男性で320.781+2.474X-0.0334X2(R2=0.065)、女性で331.637+1.7807X-0.032X2 (R2=0.177)という年齢からの予測式が得られた。考察とまとめ:今回のFR測定調査結果から、加齢に伴うFR値の低下の傾向を把握することができた。FRは年齢と共に低下はするものの、直線的ではなく、青年期をピークとして壮年期まで維持され、60代以降、徐々に低下することが明らかとなった。今回得られた予測式は、高齢者のバランス能力判定指標としての高い利用価値を持つものと思われる。また、測定にあたっては、片手測定よりも両手測定の値の方が収束することから、転倒教室等でのスクリーニングでは両手測定が望ましいことが示唆された。