抄録
【はじめに】 在宅高齢者は屋内移動が多く、歩行開始と停止を繰り返して生活の大半を過ごしている。そこで歩行開始の評価の必要性がある。本研究では、歩行開始の足圧中心点(以下、COP)の遊脚側への後方および側方移動距離と足指機能の関係を測定し、転倒との関連性も考察した。【対象】 中枢神経疾患の既往の無い、在宅高齢者9名(男性5名、女性4名、平均年齢78.8±5.4歳)であった。【方法】 問診にて、過去一年間の転倒の有無と回数を調査した。歩行開始の測定は、キスラー社製床反力計9286Aを4枚(左右各2枚)用い、サンプリング周波数は150Hzとした。床反力計の上に静止立位し、旗を降ろす合図で歩行を開始した。歩行は5m行い、歩き始めの1から4歩目を計測した。床反力からCOP軌跡を算出した。足指機能の評価は、足指把握力と足指運動能を測定した。足指把握力の測定は、竹井機器社製のグリップ5101を改良したものを用いた。端座位で足関節を90度に固定し、母指の中足指節関節にバーをあわせた。足指の屈曲によりバーを引き付け、その時の力を測定した。左右各3回行い、左右の最大値を足した値を採用した。足指運動能の測定は、TAJIMA社製のRoad Measureを改良したものを用いた。足指の屈曲にて軸を回転させるように指示した。15秒間を3回行い、最大値を採用した。【結果】 1)過去一年間の転倒経験者は、4名であり、3から10回と複数回の転倒を経験していた。2)歩行開始時のCOPの最大後方移動距離(以下、Ay)の平均は3.2±0.5cmであり、その時の側方移動距離(以下、Ax)の絶対値の平均は1.5±0.5cmであった。3)足指把握力の平均は8.37±4.46kgであり、足指運動能は87.8±55.1cmであった。4)Axと足指把握力には、有意な強い相関が認められた(r=0.73:p<0.05)。5)過去一年間の転倒経験者(以下、転倒群)と非転倒者(以下、非転倒群)に分け、相関分析とMann-WhitneyのU検定を行った。足指運動能とAyで転倒群の方が全て小さい傾向にあったが、有意差は認められなかった。足指把握力とAxは転倒群の方が有意に小さかった(p<0.05)。【結論】 高齢者のAxと足指把握力に強い相関がみられた。歩行開始はCOPの遊脚側への移動が重要であり、足指機能はCOPの側方への移動を保障していることが推察された。また転倒との関連性は、転倒群の方がAx、足指把握力が有意に小さいことから、COPの側方移動が不十分で身体動揺を増加させ、転倒へ結びついている可能性が示唆された。