抄録
【はじめに】理学療法ではtilt tableを用いた起立やマット上での立ち上がりなどの体位変換が頻繁に行われ,中にはめまいや立ちくらみなどの気分不良を示す人がみられる。気分不良という自覚的症状はリスク管理の上からも重要となってくるが,実際にどのようなメカニズムで発生するか統一した見解は得られていない。これまで,自覚的症状と血圧や脈拍数などの体循環との関係を検討した報告は存在するが,気分不良に至る要因は体循環ばかりではなく脳循環の関与も無視することはできない。脳循環には脳血流を一定に保つための自動調節能(autoregulation)が存在し,PET,SPECTや経頭蓋ドップラー法(TCD)などを用いての測定が可能となっている。そこで,本研究では健常な女性のtilt tableを用いた起立負荷時における気分不良の有無と体循環,脳循環との関係についてTCDを用いて検討することを目的とした。【対象および方法】対象は健常な女性12名(年齢22.3±1.5歳)であった。測定には電動tilt table(OG GIKEN社製)を用い,十分な安静をとった後,tilt tableを30°→45°→60°→0°と変化させ,各段階を約3分ずつ保持させた。このときの動脈圧波形をPORTAPRES MODEL-2(TNO-TPD社製)を用いて計測し,Beat Scope Ver.1.0ソフトにて平均動脈血圧(MBP)算出した。また,中大脳動脈の速度波形を経頭蓋ドップラー(EME Pioneer TC2020)を用いて記録し,平均血流速度(FV)と末梢血管抵抗(PI)を算出した。また,各段階の2分経過時での気分不良尺度を今回独自に作成した10段階評価でもって記録した。【結果】12名のうち6名は気分不良を示さず(normal群),6名は気分不良を示した(FI群)。体循環に関しては,normal群でMBPが安静時に比べて60°起立時において9±6.9mmHg低下し,FI群では10±8.5mmHg上昇を示した。脳循環に関しては, PIはnormal群ではほぼ変化は見られず,FI群では有意に低下を示した。そして,FVはnormal群,FI群ともに有意な減少を示した(normal群>FI群)。また,MBP,FVにおいては2群間で経時的変化に有意な差がみられた。【考察】FI群が気分不良を示したときMBPは保たれていたことより,気分不良の症状に対する血圧変化の影響は少ないことが示唆された。脳循環に関しては,FI群はMBPが上昇しているにも関わらずPIは低下していたことより,autoregurationの調節不全が示唆された。しかし,FVはnormal群よりも保たれていたので,気分不良を示す要因としては決定できない。今後,脳内酸素飽和度の点からも更なる検討を加えたい。