抄録
【目的】本研究の目的は、腰椎牽引による脊柱の柔軟性と表面皮膚温度の変化を調査することにより、従来いわれている脊椎牽引の一般的効果である「周囲軟部組織の伸張」と「循環改善・促進」を検証しようとするものである。【対象】被検者は、実験内容を説明し了解を得たボランティア学生12名(年齢:24.1±3.6歳、身長:173.1±4.5cm、体重:71.2±10.3kg、全て男性)で、医療機関を受診するほどではないが、実験時腰痛のあった者が4名、腰痛により医療機関を受診した経験のある者が2名含まれていた。【方法】1)牽引方法について:牽引装置はOG技研社製オルソトラックOL_-_1100を用い、被検者の姿勢は背臥位で股・膝関節を屈曲し下腿を水平位にしたファーラー位とした。体重の45%の牽引量で30度斜め上方へ、牽引10秒、休止10秒の間欠牽引を10分間施行した。2)柔軟性の測定方法:FFDと、同時に第7頚椎棘突起と左右の後上腸骨棘間の中点(C7からPSIS中点)との距離を巻尺にて、施行前と施行直後に測定した。3)表面皮膚温度の測定:ジャコビー線の高位と胸腰椎移行部の高位で最も脊柱起立筋が傍膨している部位に左右、計4個のプローブを装着した。4)実験の流れ:被検者を20分間牽引姿勢にて安静(皮膚温度を安定させるため)にさせた後、施行前5分間、牽引10分間、終了後5分(牽引姿勢にて安静)の計20分間、1分毎に皮膚温度を測定した。【結果】1)柔軟性の変化について、全体的にみるとFFDは施行前:-3.7±8.3cm、施行後:-2.1±8.0cm(p<0.01)、C7からPSIS中点距離は施行前:67.0±3.9cm、施行後:67.9±4.7cm(p<0.05)と牽引により柔軟性が向上する結果となったが、逆に柔軟性が低下する例も5名見られた。2)皮膚温度の変化について、全体を平均的にみると、ジャコビー線高位では、施行前:34.58±0.51℃、施行中前半5分:34.80±0.66℃(p<0.05)、施行中後半5分:34.71±0.91℃(NS)、施行後:34.85±0.78℃(p<0.05)と牽引を開始すると皮膚温度が一旦上昇するが、牽引を続けているうちに温度は再び元に戻り、さらに牽引が終了すると再び温度が上昇する結果となった。また、胸腰椎移行部では、牽引前より牽引中、牽引後と時間が経過する毎に温度が上昇する結果となった。しかし、個別に見ると、牽引に関係なく少しずつ温度が上昇するタイプ、牽引開始により一旦は温度が上昇するものの牽引を続けるうちに次第に温度が下降し牽引終了後に温度が上昇するタイプなど、被検者毎に多様な反応を示した。さらには、当日下肢症状(シビレ)を訴えてシビレ側の腰部皮膚温度が健側と比較し低下していた被検者が牽引により左右の温度差が消失する現象も見られた。【考察・まとめ】全体的・平均的には、軟部組織の緊張低下による循環改善が皮膚温度の上昇として現われたと考えられ、「周囲軟部組織の伸張」と「循環改善・促進」について確認されたが、個別的に見ると反応はステレオタイプではなく多様性を示すことがわかった。