抄録
【はじめに】人工炭酸泉(以下,炭酸泉)はCO2の経皮侵入により血管拡張作用、血液循環促進作用を有し、末梢循環障害、褥創などに対し良好な治療効果をもつことが数多く報告されている。しかし,これまでの報告は浸漬部への治療効果に対するものであった.今回,我々は二次感染症の問題があり創部の浸漬が困難である片側下肢の足背部難治性潰瘍の患者に対し健側である対側の下肢局所浴を試み、効果を認めたので報告する。【症例と治療内容】症例は右足背部に難治性潰瘍を有した閉塞性動脈硬化症患者、87歳の女性である。患側下肢は安静時にも血液供給が不足し右下腿遠位から足部は暗紫色を呈しておりFontaine4期と判定された。本症例においては、右足背部は二次感染症の問題があり、創部の浸漬は困難であるため、左下肢(健側)の炭酸泉局所浴が5日/週の頻度で1日1回,15分間行われた。この左下肢への炭酸泉負荷は1ヶ月間継続した。炭酸泉は人工炭酸泉浴剤一錠(50g)(花王バブ)を水温35℃,9リットルの温水に溶解し作成された.【治療評価方法】症状改善の評価指標とした動脈血酸素飽和度(SaCO2)を炭酸泉浴負荷開始10分前および終了3分後にパルスオキシメーター(PULSOX-3,MINOLTA)を用いて毎回測定した.測定部位は左右の下肢第二指とした.また、炭酸泉負荷開始4週の5日間,局所炭酸泉浴負荷によるSaCO2上昇の持続効果を評価した。【結果】SaCO2は炭酸泉局所浴開始当初,左下肢(浸漬部)において負荷前89%、負荷後90%、右下肢(非浸漬部)において負荷前85%、負荷後87%であった.開始一ヶ月後,SaCO2は左下肢において負荷前89%、負荷後93%、右下肢において負荷前89%、負荷後93%となった。持続効果においては、負荷後1時間15分までは認められたが、治療後1時間30分では開始前の値に戻った。健側下肢炭酸泉局所浴負荷1ヶ月後においてFontaine4期のままであったが、肉眼所見では右下腿遠位から足部の皮膚の色調が負荷前の暗紫色から薄紫色に改善していた。【考察】今回の症例では、炭酸泉浴開始1カ月後の負荷前後の患側SaCO2は健側と同じ値を示した。このことから、健側の断続的炭酸泉浴が患側の持続的な血液循環改善をもたらすことが明らかになった。また、患側皮膚色調も改善した。したがって、潰瘍のある患側下肢を炭酸泉に浸漬しなくても、健側下肢を浸漬することでその効果を享受できることが示された.今回の炭酸濃度,浸漬部位,浸漬時間の条件では持続効果が1時間15分程度であったことから、一日の施行回数を増やすことで、より高い治療効果が期待できる。