理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OP640
会議情報

物理療法
温熱療法実施時の熱傷危険性について
パラフィン浴反復法における被膜端および被膜内の温度変化に注目して
*岡崎 大資川村 博文鶴見 隆正辻下 守弘甲田 宗嗣
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
はじめに 本研究はパラフィン浴中のパラフィン皮膜端と皮膜内の温度変化およびその熱傷危険性について実験し若干の知見を得たので報告する。対象と方法 対象は健常成人男性10名(平均年齢30.6±11.0歳)とした。実験環境は室温約24から26度の物理療法実習室にて約51度のパラフィンを用いた。被験者は安静座位の後、前腕に対するパラフィン浴反復法(10回、挿入時間4秒)を実施した。その直後、前腕をビニール袋・バスタオルにて覆い10分間安静臥位をとった。測定は皮膜端より近位1cmの位置の血流・皮膚温・発汗量とし、パラフィン浴時の30秒毎と安静臥位時の1分毎に実施した。統計検定はそれぞれ10秒間の平均値を正規化し、一元配置分散分析を行った。また前腕部の擬似生体を用いてすでに形成された皮膜を覆うようにパラフィン浴を実施した際の皮膜内近位部の温度変化を測定した。さらに被験者10名中1名に事前に了解を得た上で、皮膜形成部分を破り、水道水を少量注入しその部分がパラフィンに覆われるように再度パラフィン浴を実施し、その温度変化を測定した。それぞれの実験中には温かさの主観的評価尺度(VAS)を測定した。結果 皮膜端の血流は時間経過による有意差がなかった。皮膚温はパラフィン浴終了まで上昇せず、安静臥位開始時と比べその4分後まで有意に上昇し、どの被験者も最高34度程度であった。発汗量はパラフィン浴時と安静臥位1分まで有意差はなく、安静臥位2分以降にパラフィン浴時と比べ有意に低下した。温かさについてのVASは被験者10名中7名が安静臥位初期に高得点を示したが、3名はパラフィン浴直後に低得点を示し、熱い不快感覚を訴えた。擬似生体を用いて皮膜を覆った際の皮膜内の温度変化はパラフィン浴時に最高44.7度まで上昇した。また、被験者1名の皮膜を破った後、再度パラフィン浴を実施した際の皮膜内の温度変化は49.0度まで上昇し、被験者が温痛覚を知覚したため実験は中止された。考察 熱による生体組織損傷は45度の熱では2から3時間、50度の熱では数分間その環境にさらされることで生じるとされている。皮膜端の皮膚温は最高34度程度であったことと、すでに形成された皮膜をパラフィンで覆った場合の皮膜内の温度上昇が44.7度までであったことより、皮膜端を覆ってパラフィン浴を実施したとしても皮膜端での熱傷危険性は低いことが示唆された。しかし温痛覚閾値に近い温度まで皮膚温が上昇する可能性があるので対象者の不快感のチェックを十分行う必要がある。また、皮膜を破り水を注入した際の温度変化は最高49度まで上昇しており、比熱の高いパラフィンの保温効果を考慮すると皮膜が損傷した後もパラフィン浴を継続することで持続的な温痛覚、および熱傷が生じる可能性が示唆された。
著者関連情報
© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top