理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OP643
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物理療法
人工炭酸泉浴はラット廃用性萎縮筋の組織酸素飽和度を上昇させる
*中嶋 正明秋山 純一小幡 太志中俣 孝昭祢屋 俊昭
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抄録
【目的】人工炭酸泉(以下,炭酸泉)は含有するCO2の経皮吸収により,血行促進,微小組織循環の改善など種々の作用が明らかにされている。これまで我々は炭酸泉浴負荷による皮膚血流および深部組織血液動態を健常人を対照にして評価してきた。今回は廃用性筋萎縮に対して炭酸泉浴が及ぼす効果を明らかとするため動物廃用性筋萎縮モデルを作製し,萎縮筋の組織酸素飽和度についてレーザー組織血液酸素モニターを用いて評価を行った。【対象と方法】Wistarラット(雄,11週齢)6匹が用いられ,後肢の廃用性筋萎縮を作製するため,尾部懸垂により後肢を免荷した。3週間後,実験動物は尾部懸垂から開放され,ケージ内で運動が自由な状態で飼育された。同時に38℃淡水,38℃人工炭酸泉への入浴負荷が開始された。ラットは無作為に淡水浴群(n=3),炭酸泉浴負荷群(n=3)に分けられ,下肢が浴水に浸漬されるよう5cmの深さまで浴水を満たしたプラスチックケージ(幅276×長さ445×深さ204mm)内に入れられた。入浴負荷時間は15分とした.萎縮筋組織酸素飽和度の測定は浴水負荷前,直後,30分後,1時間後に行われた。人工炭酸泉の作成は,高濃度人工炭酸泉製造装置 (三菱レイヨン・エンジニアリング)を用い,その炭酸濃度は1000ppmに調整された。【結果】萎縮筋組織酸素飽和度は浴水負荷前,直後,30分後,1時間後に淡水浴群では,53.3±1.9%(Mean±SD),52.3±0.8%,52.5±1.8%,54.2±1.8%,炭酸泉浴負荷群では,51.0±0.8%,53.5±3.3%,55.3±2.1%,57.4±2.5%となった。【考察】淡水浴群では負荷前後で酸素飽和度に変化は認められなかった。それに対して炭酸泉負荷群では萎縮筋組織酸素飽和度が負荷30分後,1時間後と時間経過とともに上昇する傾向が認められた。これまで健常成人を対象に炭酸泉浴負荷による酸素飽和度の上昇効果を確認してきたが,今回の結果から廃用性筋萎縮をきたした筋においても炭酸泉浴負荷が有効であることが明らかとなった。これまでの我々の実験では炭酸泉浴負荷終了後,時間経過とともに深部組織の酸素飽和度は徐々に減少したが,今回のモデルでは酸素飽和度が炭酸泉浴負荷後1時間経過するまで上昇傾向を示した。この現象は懸垂負荷から解放され免荷されていた後肢に,荷重負荷がかかった状態での運動負荷および炭酸泉浴負荷による血流改善効果等が相乗的に働いて起こったと推察される。この機序に関しては今後さらなる研究が必要である。以上のことから廃用性筋萎縮が避けられない骨折後やアキレス腱断裂後のギプス固定患者の予後に炭酸泉浴を併用することが有用であると考えられる。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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