抄録
【はじめに】 通常、筋の伸長によって筋紡錘(MS)の発射頻度impulse/sec(I/s)が増加し、伸長保持中に次第にI/sは減少する。このI/s減少は錘外筋や錘内筋の緩和やMS感覚神経終末部の符号化機序の順応で説明されている。物理的伸長によるMS I/s減少と錘外筋の張力緩和について調べたので報告する。【方法】 シールド箱内に一端を固定した神経束付き蛙縫工筋をリンガー氏液中に置き、シールド箱外から筋の他端を伸長した。伸長量はMSI/sが70から120I/sの範囲とした。伸長は荷重と変位同時測定可能な手動式歯車駆動とした。筋と神経束部とをワセリンで隔絶し、1秒間のスパイク数であるMS I/sを1秒間隔で30秒間記録した。伸長(速度4.5mm/s)量と伸長保持中のMS I/s減少と筋張力の減少を調べた。MS I/sの減少や筋張力の減少の代表値は30秒間の終わり10秒間の平均とし、種々条件での比較を行った。【結果】 初期長29mm筋を3,6,8,9,12.3mm伸長した場合のMS I/sのピーク値は27I/s,53I/s,88I/s,82I/s、105I/sと伸長率に大きく左右された。各伸長量時の10秒間のMS I/sの平均はそれぞれ、12.5±3.7I/s、12.7±1.8I/s、19.5±3.6I/s、16.1±1.5I/s、23.3±1.8I/sであった。周知のように伸長率が大きいと発射頻度も多い傾向にあった。 一方、MS I/sのピーク値に対する割合の10秒平均は、上述の伸長率順に示すと、46.3±13.7%、24.0±3.5%、22.2±4.1%、19.6±1.8%、22.2±1.7%、19.6±1.8%、22.2±1.7%に減少した。 筋張力ピーク値は伸長率順に示すと、1.2、3.1、3.7、4.5、8.1grfであり、伸長率増加につれて反力は増加した。 筋張力ピーク値に対する割合の10秒平均は、68.2±1.8%、67.8±0.4%、68.3±0.5%、81.1±0.4%、79.6±0.5%、に減少した。伸長率増加に伴い減少率は低下傾向を示したが明瞭な傾向では無かった。 伸長率増加に伴いMS I/sはピーク値の20から25%程度まで減少し、筋張力はピーク値の70から80%に減少した。【考察】 筋の伸長率が20から40%程度の場合のMS I/sは30秒間でピーク値の70から80%も減少するが筋張力緩和はピーク値の20から30%の減少に過ぎない。ピーク値に対するこの減少率の違いは伸長速度、温度、筋の粘弾性、などに左右されるが筋肉の緩和要素だけでは説明できそうもない。感覚神経終末部の符号化機序の順応などについて、今後も研究が必要である。 以上の結果から実験条件を工夫すれば、ばらつきは大きくないので、筋肉の緩和特性や、MS I/s特性を指標として、理学療法で用いる刺激の影響の有無や程度を追及できる可能性が得られた。