抄録
はじめに:局所麻酔剤である塩酸ブピバカイン(以下BPVC)は、筋線維の壊死・再生の実験によく使用されている。本剤の特徴は筋線維に対して毒性はあるが、末梢神経や血管系は障害されず、投与後急速な筋線維の壊死とそれに続く活発な再生が起こり、約1ヶ月で再生が完了すると言われている。そこで、今回はBPVCを使用し実験的に壊死させた筋に対し、一定の運動負荷を継続的に加える事で、再生の完了に至る期間が促進されるか否かについて検索した。対象・方法:Wistar系雄ラット74匹(7週齢)を用いた。1週間予備飼育後実験群(n=37)、対照群(n=37)に分け両群ともラット左ヒラメ筋にBPVC0.5ml注入した。対照群は自然飼育し、実験群は処置後翌日より実験動物強制運動測定器を用い週5回、15m/min、15分間運動を行わせた。餌・水は自由摂取とした。それぞれ1、2、3、4週間運動を施行し、各週運動終了後左ヒラメ筋を採取した。採取後筋湿重量測定し、組織学的分析を行う為に急速凍結させた。染色法はmyosinATPase染色、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、アクリジン・オレンジ(AO)染色を行った。これらにより筋線維断面積測定、DNA・RNAの分布を同定し、運動負荷が筋再生を促進するか否かを比較した。なお、本研究は本学の定める「動物実験に関する基本的指針」を遵守していると承認されたものである。分析:各群に対し体重比、筋線維断面積、AO染色陽性線維の分析は1元配置分散分析、多重比較、t-検定を用いた。結果:体重比は実験群、対照群とも有意差は認められなかった。しかしながら、筋断面積では実験群にて2、3、4週で有意差が認められ、また、AO陽性線維は対照群に対し、実験群で2週目に有意差が認められた。結論:本研究では、BPVCを注入し筋線維を実験的壊死させ、その後運動させることにより、より早い再生活動が行われるであろうと推測した。RNAの存在を示す橙色の蛍光がみられないものを(-)、筋線維辺縁部にわずかに認められるものを(+)、辺縁部より内側に入りこんでいるものを(++)、筋線維全体に認められるものを(+++)として4段階に分け各筋線維50本の中から各段階の比率を求め筋再生のパラメーターとして半定量的に検討した。半定量化検討により(++)、(+++)を陽性線維とし線維を確認すると運動群の方が明らかに陽性線維の出現頻度が高く、さらに筋線維断面積は大であった。 以上の所見より,一定の運動負荷を継続的に加える事で、再生の完了に至る期間が促進されるものと推測される。