抄録
【目的】骨格筋の壊死後の筋線維再生は塩酸ブピバカイン(BPVC)投与による動物実験モデルを用いて研究されている。進行性筋ジストロフィー症のような筋力低下とその阻止や回復可能性は,理学療法にとって直面する重要な問題である。筋線維の萎縮や肥大に関して多くの組織学的,組織化学的研究は報告されているが,壊死後の筋再生における張力の回復および運動負荷の影響の観点からの研究はまだ少なく,結果も不明瞭である。本研究ではラットヒラメ筋の壊死後の再生筋の張力特性,その形態測定学的特性および収縮特性に与える運動負荷の影響について検討した。【対象と方法】7週齢のWistar系雄ラット74匹の右ヒラメ筋を被験筋としBPVCを注入した。これらを無作為に運動群と対照群に分け,さらに両群の実験期間を1週,2週,3週,4週に分けた。小動物用トレッドミルを用いて速度15m毎分,傾斜0で15分間の連続走行を一定の負荷量とした。対照群は,実験期間中通常飼育とした。採取した右ヒラメ筋腱試料は37℃に加温したリンゲル液の入った恒温液槽の中に浸漬した。摘出試料の一端を固定し,他方をひずみゲージ式ロードセルに固定し,最大上刺激電圧を与えて等尺性の単収縮を行わせた。筋長は静止長の110%の長さで伸張し固定した。ひずみアンプの出力は信号処理装置でAD変換し,パーソナルコンピュータに記録し,等尺性収縮張力を解析した。記録中,リンゲル液は混合ガスにて十分に通気を行った。測定終了後,体重および筋湿重量の変化,筋の幅および長さを計測し,筋断面積,体重あたりの相対重量を評価した。各単収縮曲線から潜時,収縮時間,張力増加率,最大張力を測定した。統計学的検定はt検定,分散分析,多重比較を行った。【結果】筋湿重量,筋断面積は両群で実験開始から徐々に増加し,実験終了後に高値を示した。しかし筋の長さは著明な変化は見られなかった。2週群の最大張力は両群とも1週群の2倍に増加した。しかし両群とも3週,4週では著明な増加は見られなかった。単位断面積あたりの張力,張力増加率は対照群に比較し高値を示した。しかし両群間に有意な差は認められなかった。その他の項目においても両群間に有意な差は認められなかった。収縮時間は両群とも4週で1週,2週より延長した。【考察とまとめ】筋再生は3日後より開始され,約4週間で再生は完了するといわれている。我々は再生筋のDNAおよびRNAの発現を観察した結果から,壊死後2週目に最も活発な再生が起こっている事を確認している。本研究より筋張力特性の推移を概観すると最大張力,単位断面積あたりの張力および張力増加率は2週群に大きく増加した。すなわち,再生に比例し,筋の機能は回復していくものと推測される。両群間の筋張力特性を比較すると有意な差は認められなかった。このことから,筋再生中の運動は筋張力を改善させる効果がないものと考えられる。