抄録
【はじめに】進行性の難病を患っているALS患者にとって、一度獲得したコミュニケーションの手段を放棄しなければならなくなるのは、非常に苦痛を伴う事である。進行していく症状に合わせ、残された機能で、いかにコミュニケーションの方法を維持していくかが重要な課題である。 今回、EOGセンサー(シースターコーポレーション社製)を使用して、眼球運動によるパソコン(意思伝達装置 伝の心日立製作所製)への文字入力が維持された症例について経験したので報告する。【症例紹介】66歳 男性[診断名]筋萎縮性側索硬化症(ALS)[現病歴]平成9年1月右下肢に脱力出現。平成9年7月他院にて黄色靭帯骨化症を手術。平成9年10月ALSと診断される。平成10年6月症状進行し四肢麻痺となる。平成10年11月当院入院。呼吸筋麻痺による呼吸不全のため人工呼吸器装着。平成11年4月嚥下障害のため胃ろう造設。平成12年9月退院し在宅療養開始。【経過】入院中、コミュニケーションには、左の母指につけた鈴と透明文字盤を使用していた。妻のみと簡単な意思疎通が可能であったが、妻の想像力に頼るところが大きく受動的なコミュニケーションであった。 平成12年9月退院時に意思伝達装置を導入。左の母指でタッチセンサー(シースターコーポレーション社製)を操作し自分の思うとおりに文字を入力し、誰とでもコミュニケーション可能となる。パソコンの読み上げ機能による音声で、自分から質問したり、呼びかけたりできる能動的なコミュニケーションを獲得する。 平成14年7月左母指の動きが低下し文字入力が困難となる。磁気センサー(シースターコーポレーション社製)、ピンセンサー(Pacific Supply社製)を試みるが、今後の症状の進行と患者の心理的な負担を考慮しなるべく長期間使用できるものを選択することとなる。 平成14年8月横方向の眼球移動による電位差を検知し文字入力を可能にするEOGセンサーを導入する。文字の入力速度は、タッチセンサーを使用していたときよりも遅くはなっているが、自分の思った事を表現する能力は維持されている。【考察】ALSで最も長く残存する機能として眼球運動が挙げられる。この機能を利用して文字入力が行えるEOGセンサーは画期的なセンサーであるが、頭部に3つの皿電極を装着しなければならず、患者本人や家族に多少の抵抗感を与えた。また、長期間にわたり眼で画面を見ながら、左母指で文字入力を行ってきた患者にとって、EOGセンサーでは眼で見る事と文字入力の2つを眼球で行う事になり、文字入力のタイミングが大きく異なる。このことをあらかじめ想定しパソコンのカーソールの速度を遅くして訓練をはじめると良いのではないかと考える。EOGセンサーは、眼球運動が残存する多くのALS患者の意思伝達に役立つのではないかと期待している。