抄録
「目的」介護老人保健施設の入所中に、移動手段として車椅子を用いる者(車椅子利用者)は、環境的な要因で継続的な自宅生活が困難な場合が多い。介護老人保健施設が在宅復帰を支援する施設として機能するために車椅子利用者の在宅復帰向上が求められる。車椅子利用者は同様に見られるが、訓練実施時に杖歩行から坐位保持困難まで様々である。これより車椅子利用者の施設内の生活パターンも異なり、それに伴う社会福祉サービス提供で、車椅子利用者の在宅復帰の向上が図られるのではないかと考えた。本研究では、客観的な指標を参考に自宅の生活範囲を想定し、車椅子利用者を訓練時の移動能力から分類を試みた。それぞれの分類より施設内のADLと家族状況を検討し、必要な社会福祉サービスを考察したので報告する。「方法」調査対象は、本施設で理学療法を行う車椅子利用者とした。車椅子利用者の身体状況で継続的な理学療法を行えなかった者は、調査対象から除外した。調査期間は平成13年8月から平成14年9月末である。移動能力分類の参考として用いた客観的な指標は、機能的自立度評価法(FIM)で、車椅子利用者の入所時と退所前のADL変化を探った。退所時の介護状況に影響がある家族情報は、本施設の相談員から収集した。社会福祉サービスは公的介護保険を中心に、本施設がある東京都世田谷区で提供しているサービスとした。「結果」調査対象は49名で男性6名、女性43名、平均年齢は84.1歳である。分類は以下のように行った。分類1=車椅子駆動ができ、要監視で杖歩行が20m以上可能な者(3名、FIM点数112点)。分類2=車椅子駆動ができ、要監視と一部介助で杖歩行が5m程度可能な者(2名、FIM点数117点)。分類3=車椅子駆動ができるが、両方の支えと要監視で歩行が可能な者(22名、FIM点数64.1点)。分類4=車椅子駆動ができないが、両方の支えと一部介助で立位が可能な者(11名、FIM点数38.8点)。分類5=車椅子駆動ができず、立位不可の者(11名、FIM点数28点)。分類1および2の者の施設内生活は車椅子利用でほぼ自立で、分類3の者は生活全般で部分介助を要した。分類4および分類5の者は生活全般で完全介助を要した。「考察」在宅復帰に向けた社会福祉サービスは分類1および2の者は住宅改修や福祉用具の必要はあるが、自宅での車椅子使用は不要と考えられる。分類3の者は住宅改修や福祉用具の選定でも、住宅により移動には車椅子を要する。分類4および5の者は自宅でも常時車椅子使用の生活が考えられ、介護者の介助時間も長くなる。車椅子利用者でも分類により、在宅復帰の可能性があることが確認できた。