抄録
【目的】座位保持が可能な方でもリーチ動作能力に差が生じている。座位でリーチ動作を行なう場合、脳卒中片麻痺患者においては静的座位時の重心位置が既に偏位している事と、移動可能な範囲が関与していると思われる。今回、事例4名に対し重心動揺計を用いて検討したので報告する。【対象と方法】座位保持可能な脳卒中左片麻痺男性患者4名である。内訳は事例1:49歳、独歩、Br.IV、感覚障害無し。事例2:65歳、T‐杖・AFO使用にて屋外歩行自立、Br.II、感覚障害無し。事例3:57歳、T‐杖・AFO使用にて屋内歩行自立、Br.II、感覚中等度鈍麻。事例4:67歳、AFO使用にて介助歩行、Br.II、感覚中等度鈍麻、軽度の左半側空間失認有り。 測定器機はアニマ社製の重心動揺計G‐5500を用いた。測定肢位は、1:端座位保持での計測として背もたれの無い椅子にて両足底とも全面接地の状態で大転子と膝窩を結んだ線の中点が椅子の前方端になるよう座る。その時、足関節は底背屈0度とし、両上肢は胸部前面で組みCOP(center of pressure:臀部の圧中心)を30秒・20Hzにて計測した。2:リーチ動作の計測として2枚のフォースプレートの中間とY軸の交点から1m先にローラーを垂直に前方・左右45度前方・左右側に置き、5方向へリーチ動作を行なわせた。1方向につきCOPを10秒・20Hzにて計測した。計測の際は各方向へ1度練習を行ない、その後、計測を行なった。リーチ時に上肢が周辺物へ接触、または、下肢が床から離れると中止し再計測した。分析パラメーターは総軌跡長・矩形面積・外周面積・X方向最大振幅・Y方向最大振幅である。【結果】4例の総軌跡長・矩形面積・外周面積・X方向最大振幅・Y方向最大振幅において静的座位時では大きな差は見られなかった。しかし、リーチ時においては事例1・2で、リーチ方向への振幅が大きく、軌跡もリーチ方向へのびていた。事例3では振幅が見られるが軌跡がリーチ方向へ乱れを生じている。事例4では振幅の幅が短く、リーチ方向と反対方向へ軌跡が伸びリーチ方向以外への動揺幅も大きかった。【考察及びまとめ】今回、重心動揺計を用い座位保持可能な脳卒中左片麻痺患者の静的座位と座位でリーチを行なった際の動揺を計測し検討した。その結果、静的座位においては歩行レベルでの差は見られなかった。しかし、リーチ時では独歩・屋外歩行レベル患者の振幅の幅が大きく、目的の方向へ伸びており、随意的にバランスを崩し大きく移動する事が可能と考えられた。これに対し、介助歩行レベルの患者ではリーチ方向への振幅の幅は小さく目的方向以外への振幅が見られ、振幅はリーチ方向よりもその反対方向へ伸びていた。この事から随意的にバランスを崩す事は困難でリーチ範囲も上肢長の範囲でしか行なえないと考える。これらの事から、スムーズなリーチ動作を行なうには随意的に目的の方向へ重心を移動させる能力が必要であり、また、事例2・3から感覚障害との関与も考えられる。リーチ動作能力の改善には体幹を含んだ重心移動を伴う訓練を取り入れる事が必要であると考える。