抄録
【はじめに】脳卒中患者にとって退院後の生活は、介護者の存在が非常に大きい。家族の介護負担感を十分に把握し、検討することが、今後のリハビリテーションにとって重要であると考える。今回、当院に外来通院している在宅脳卒中患者の介護者に介護負担感を調査し、検討したので報告する。【対象及び方法】外来通院中の脳卒中患者の主介護者71名に対し、自記式質問紙法を施行した。アンケート項目は、患者名、主介護者の年齢・続柄、同居人数、主介護者の仕事の有無、主観的健康状態、介護・福祉サービス使用の有無、日本語版Zaritの介護負担感尺度を調査した(すべて任意回答)。負担感尺度の22番目の回答で「かなりの負担」「非常に大きな負担」を選択した者を負担群、「世間並みの負担」「多少負担」「全く負担ではない」を非負担群とし、比較検討した。なお患者の概要は、データーベースから検索した。【結果】アンケート回収率は69%(48名)であった。22番目の回答は、「かなりの負担」2名「非常に大きな負担」6名「世間並みの負担」16名「多少負担」14名「全く負担ではない」3名無回答7名であった。介護者因子は、年齢が負担群69.6歳、非負担群58.6歳、介護期間は負担群23.1ヶ月、非負担群14.1ヶ月、職業の有無は、負担群が有職1名、無職7名、非負担群は有職18名、無職15名、主観的健康状態は、負担群が不健康3名、健康5名で非負担群は不健康2名、健康30名でいずれも有意差を認めた。サービスの利用は、負担群が利用8名、非利用0名で、非負担群は利用21名、非利用11名であった。患者因子は、氏名が記載されていた者は36名(性別:男21名、女15名、年齢:平均67.1歳、疾患:脳梗塞21名、脳出血15名)で負担群8名、非負担群28名であった。患者年齢、性別、麻痺側は有意差がなかった。FIM総得点は負担群88.9点、非負担群103.5点で有意差はなかった。運動項目合計は有意差がないが、認知項目は負担群24.0点、非負担群29.9点と有意差を認めた。特に理解、記憶、問題解決に有意差を認め、負担群に高次脳機能障害、失語、構音障害、痴呆の合併が有意に多かった。【考察及びまとめ】患者因子は認知項目に有意差があり、特に理解、問題解決、記憶に有意差が認めた。諸家の報告では、認知障害の程度が大きくなると介護者との人間関係が損なわれるため、介護役割を受容することが難しいとされる。今回の調査では運動項目には有意差がなく、むしろ認知障害が介護負担感に大きな影響を及ぼしていた。このことは高次脳機能や痴呆による状況判断不良や失語等によるコミュニケーション障害が介護負担感を高める可能性を示唆している。また介護者因子として年齢、介護期間、仕事の有無、健康状態に有意差を認めた。このことは患者の身体要件のみでなく、介護者の状態にも配慮した対応が重要と思われた。