抄録
【はじめに】諸外国と比較すると本邦において、頸部痛に関する研究は少ない。そこで今回、頸部痛に関する基礎データを得るために、股関節疾患を主に有する中高年者の頸部痛に対する意識調査を行った。【方法】対象は、広島市内にある某病院の理学療法室に来室した患者のうち同意を得られた100名(男性22名、女性78名、平均年齢59.3±13.5歳)であった。属性は77名が変形性股関節症をはじめとした股関節の有痛性疾患の術後であった。20名がその他の整形外科疾患、3名が中枢性疾患であった。調査はSpangfort(1995)の論文を参考に用紙を作成し、直接面接方式で行った。質問内容は、疼痛部位とその強さ(VAS)、頸部痛経験の有無、頸部痛の種類、頸部痛の原因などであった。得られたデータを頸部痛経験群と未経験群に分けて各群間の特徴を調べた。統計学的検定にはχ2検定を用い、危険率5%未満を有意とした。【結果】疼痛部位は、「股関節」が29名で最も多く、「腰部(22名)」、「肩部(21名)」と続き、「頸部」は14名であった。VASの平均値は、「頸部」が最も高く6.0で、他の部位は「股関節(5.4)」、「腰部(5.0)」、「肩部(5.6)」であった。頸部痛経験ありと答えた者は53名であった。頸部痛の種類は「こっている感じ(18名)」が最も多く、「重たい感じ(10名)」、「忘れた(9名)」、「気分が悪い(3名)」、「動かせないような鋭い痛み(3名)」と続いた。頸部痛の原因としては、「肩こり」を挙げる者が最も多く14名で、「頸椎捻挫(12名)」、「寝違い(10名)」、「原因不明(9名)」と続いた。質問時に頸部痛を訴えていた14名において、頸部痛と肩こりに強い関連を認めた(p<0.01)。頸部痛と腰痛に関連は認めなかった(p=0.06)。また、頸部痛経験群(53名)では未経験群と比べて肩、腰の痛みを訴える者が、およそ2倍程度多く、頸部痛と肩、腰痛に強い関連を認めた(p<0.05)。【考察】53名から頸部痛経験があるという回答を得たことから、頸部痛は日本人においても無視できない痛みとして捉えることができる。しかし、VAS値が高いにも関わらず頸部痛を主訴とする者はおらず、股関節疾患などと比較すると頸部痛は日常生活において重大な問題となりにくいことが推測された。頸部痛と肩こりに統計学的に強い関連を認め、肩こりに起因する頸部痛の存在が示唆された。また、頸部痛経験群では未経験群と比べて肩、腰の痛みを訴える者が、およそ2倍程度多かった。その理由としては、未経験群では、肩こりを痛みとして捉えている者が少なかったことが挙げられる。このことから頸部痛経験群は、Olsonら(2000)の報告のように痛みの閾値が低いということが推測され、他の部位の疼痛を訴えやすいということが示された。