抄録
【目的】立位平衡は年齢を重ねるごとに発達し,年齢を重ねるごとに低下する。本調査の目的は,立位平衡の指標である片脚立位保持能力の変化過程を関数と微分の処理によって線形性,方向性の視点から分析することである。また,足底二点識別覚との関係についても検討を加える。【方法】対象は健常者1073名(2歳から92歳)である。ストップウォッチを用い,開眼片脚立位保持時間(以下開眼)と閉眼片脚立位保持時間(以下閉眼)を測定(120秒を最高値)した。足底二点識別覚は信頼性から,青年期から89歳までの中から無作為に選出した579名に対し,踵中央から前足部に向けノギスを接触させ距離を測定した。年齢と開眼及び閉眼間の決定係数を二次関数と三次関数を用いて算出した。また,得られた曲線に接線を描き,接線の傾きを微分公式により算出した。さらに各年代別の平均値を用いて,年代(x)と平均値(y)の一次関数式を求め傾き(a)を算出した。二点識別覚と開眼及び閉眼の関係にはピアソンの相関係数を求め処理した。【結果】二次関数の決定係数は開眼0.64,閉眼0.32(ともにp<.001)であり,極大値で接線の傾きが0となる年齢は開眼37歳,閉眼37歳であった。一方,三次関数の決定係数は開眼0.78,閉眼0.51(ともにp<.001)であり,極大値で接線の傾きが0となる年齢は開眼30歳,閉眼28歳であり,極小値は開眼88歳,閉眼77歳であった。変曲点は開眼62歳,閉眼53歳であった。開眼の幼児期から青年期までの一次関数の傾きは7.2,青年期から30代-0.006,30代から50代-0.85,50代から70代-3.3,70代から90代-1.5であった。閉眼では,幼児期から青年期までの傾きは6.6であったが,20代から90代にかけて直線的に低下しており,その傾きは-1.2であった。なお,開眼の標準偏差は学童期と60代で高値であったのに対して,青年期から30代までは低値を示した。また,閉眼の標準偏差は幼児期と90代で低値を示したが,青年期から40代までは比較的高値を示し,50代から徐々に低値を示しはじめた。開眼と二点識別覚にはr=-0.78(p<.001),閉眼と二点識別覚にはr=-0.54(p<.001)と有意な負の相関が認められた。【考察】三次関数の適合性が高い理由は,発達に比べ低下が緩徐であることを示唆している。これは開眼の一次関数の傾きにも顕著にあらわれている。三次関数の極大値が開眼は30歳であったのに対し,閉眼は28歳であった。これは閉眼では,20代から傾きが負の方向性を示すことからも20代後半より閉眼立位平衡が低下しはじめることを裏付ける結果となった。開眼において学童期と60代にバラツキが大きいことは,立位平衡の発達,老化がこの年代の運動経験によって左右されることを示している。これには,今回関連の見られた足底二点識別覚など足底感覚情報の影響も一要因と考えられる。本結果は,健康増進を目的とした立位平衡トレーニングの基礎的資料になると共に障害者の片脚立位保持時間の目標値設定に有用であると考える。