抄録
(目的)客観的臨床能力試験(以下OSCE)は、学習者の基本的な臨床技能の習得度を客観的に評価するもので、知識中心の多肢選択試験成績とは相関しない尺度と位置づけられている。また、OSCEは単に点数による評価のみでなく、基本的な技能や患者様への態度の習得過程が不完全な学習者を洗い出すスクリーニングとしての効果も期待できる。そこで私達は、総合臨床実習直前の4年生に対して、基本的な技能習得の確認および良好な人間関係構築における諸要因のスクリーニングを目的としてOSCEを開発・試行し、その結果から理学療法におけるOSCE導入の効果と今後の課題を整理したので報告する。(方法)下記に示す4課題を選択し、各評価項目の設定およびその判定マニュアルを作成した。完成までに約半年間のバージョンアップを繰り返し、教官の総意と予備検討で評価得点にばらつきがないことを確認した上で試行版とした。実施対象は、本専攻4年生18名であった。課題は人工膝関節置換術後患者を想定した脈拍・血圧測定(課題1)と関節可動域・筋力の測定(課題2)、および脳血管障害後片麻痺患者を想定した医療面接(課題3)とバランス評価(課題4)であった。この想定患者ごとに2ステーションを設置し、各ステーションには模擬患者1名と評価者(教官)2名を配置した。1課題は制限時間を7分とし、その配点は1項目0,1,2点の50点満点とした。主な評価項目は、課題1では患者様への配慮、脈拍・血圧測定およびトランスファーの技能、リスク管理であった。課題2では、関節可動域・筋力測定の技能とした。課題3では医療面接の進め方、医療面接で得た情報の範囲と内容、課題4では患者様への応対、バランス評価の技能とした。なお、総合印象として教官が感じる問題の有無を記した。課題、評価基準等は、事前に学生に公開した。OSCE実施後、集計、分析を行い、学生個々に点数と問題点を伝え、今後の学習方法等への個別指導を実施した。(結果および考察)2名の教官による合計点の差は2つのステーション間で100点満点中の平均2.6点であり、下位項目の一致率も平均70%程度であった。各課題の平均得点は、課題1:85.0±7.6点、課題2:85.4±8.2点、課題3:65.5±7.2点、課題4:77.3±11.8点で医療面接が他の課題に比較して有意に低かった(p<0.01)。下位項目の医療面接におけるリスクの予測は満点をとった学生が2.8%と特に低かった。また、リスク管理の習得度は低い傾向にあり、今後の指導の充実の必要性が考えられた。今回、総合印象の評価が4課題全てで問題有りとされた学生は、これまでの学業成績は悪くないにもかかわらず臨床実習でのつまずきがみられた。以上の結果から、OSCEは理学療法における基本的臨床技能の評価に有用であると同時に、実技習得における学生への教育ツールとしての効果も期待できた。