抄録
【はじめに】理学療法士(以下PT)が患者に対して行なう介助動作は、PT自身の身体的特徴と患者自身の運動能力によって変化する。しかし、初対面の患者に対しても、PTは概ね適切な運動の介助ができる。だが、理学療法を学んでいる学生(以下PTS)は患者に合わせた介助を行なうことは難しいと一般的にいわれている。PTはこの動作をどのように獲得しているのか。また何をフィードフォワード情報として利用して、PT自身の運動を制御しているのであろうか。今回、立ち上がり介助動作の分析を通して、PTおよびPTSの動作の特徴を考察したので報告する。【対象】PTS群:4年制大学の理学療法学科3年に在籍する女子学生7名(平均年齢20.4±0.53歳)、PT群:女性PT8名(平均年齢27.7±4.39歳)【方法】中に重錘を入れて人体と同じ重さの配分にした介護用人体標本(以下標本、重さ38kg)を用いて車イスからの立ち上がり介助動作を、以下のとおり全員実施した。なお、標本の下肢の関節を自由にして支持性を失わせたうえで、左下肢に短下肢葬具を装着させて、左下肢の支持性を若干高めて右片麻痺を想定した。第1試行;車イス上の介護用人体標本を3回連続して持ち上げ、中腰にする。第2試行;立ち上がりの介助動作を行なう。これらの動作を3次元動作解析装置と床反力計にて記録した。【結果】標本の到達点の高さはPT群では1549.2±29.5であり、PTS群1526.3±27.5よりも高い傾向を示したが、有意差は認められなかった。対象との体幹の距離は、PT群が91.4±48.7で、PTS群265.5±195.6より有意に少なかった(p<0.05)。下肢の位置は308.8±49.2であり、PTS群442.4±62.4より有意に少なかった(p<0.05)。介助者と標本の圧中心と下肢の距離に有意差は認められなかった。(単位はmm)【考察】今回の結果から、介助動作について両群間の相違を考察する。介助者と標本の距離がPT群で有意に小さく、一定の距離を保ちながら動いていることが示された。このことから、PT群は第1試行で標本の動きを予測し標本に合わせて行動することが可能となっているが、PTS群は第1試行を有効に利用していない。また同様にPT群は標本に有意に近い下肢の位置を取っており、このこともまた標本の情報を得るためと考えられる。対象の情報を適切に受け取ることは、運動を制御するためには必要な条件と推察できるが、今回のPT群とPTS群で有意差が見られた項目は、標本の情報を得ることに関することであったことを示している。有意差は得られなかったが、標本の到達点の高さがPT群で高かったことは標本の情報を受け取れたために完全な立位に近づけたことを示す結果と考えた。