抄録
目的:経験豊富かつ優れた臨床実習指導者による臨床実習教育の特徴や要因を、臨床的推論に対する教育に焦点をしぼり抽出する。
方法:卓越した臨床実習指導者(以下SVと略す)による臨床実習教育を極力介入しないように観察し、特に臨床的推論の教育に焦点を当て分析した。優れたSVの基準は特に設けず、学校養成施設の教員によりほぼ一致した認識が得られている指導者とし、今回は2施設3名とした。指導を受けた学生は各SV当たり1名、計3名、観察者も各1名ずつ計3名で担当した。観察頻度は実習開始から週1回終日とし、一組は実習後半のみの観察となった。観察は主に学生に密着し、SVと学生の位置関係、指導方法や内容を継時的に記録するタイムスタディとし、指導や理学療法場面はビデオや音声録音を行った。ビデオや音声記録は観察記録の補完のために使用した。また、理学療法の経過記録やデイリーノート、症例報告も適宜参照した。さらに臨床実習中の中間評価や最終成績についても収集し、学生およびSVには実習終了後に面接を行った。なお、調査にあたりSV、学生、担当患者には本研究の趣旨等を口頭及び書面にて説明し協力の同意と署名を得て実施した。
結果:SVの臨床実習教育の方法は3組とも異なっていた。一組目はSVがまず理学療法を患者に実演し考え方も解説し、学生はそれに従い実施していた。学生の実施場面ではSVは遠位での監督が中心であった。二組目は学生のプランを理由や目的などを確認の上学生自身に実施させ、必要に応じ指導を行っていた。監督は遠位での監督が主であるが適宜近位での監督も行っていた。SVに監督の距離の使い分け理由を聞いたが実習当初は近位とし、安全に実施可能であると確認したら遠位もしくは監督しないこともあるがSV自身と学生と患者の状況とで臨機応変に考えていた。これはSV3名に共通していた。三組目は前述の二組の中間型とも言える方法で実習前半はSVの指導が多く、後半は学生が自ら考え実施し必要に応じSVが指導していた。監督距離は二組目のSVとほぼ一致していた。理学療法の計画や変更等に関わる推論について、一組目はSVの考え方をまず解説していた。他の二組はまず学生に考えさせ、反応がない場合にはこのような考え方もあるという話し方で示していた。
考察:側で観察されるのは学生やSVにとっても心理的ストレスになることは避けられず、通常の臨床実習と全く同じ環境とは言えないことを学生、SV共終了後の面接で答えていた。これは本研究の限界と認識しつつ、卓越したSVによる指導は基本的にはSV自身の指導スタイルが基本にあり、学生のレベルや積極性等の状況に応じて対応していると考えたが、SV自身もこの解釈には同意していた。そして、学生の知識レベルや積極性等の把握に優れ臨機応変に対応できることが優れたSVであることが限られた事例から特徴を抽出できたが、これらは従来から述べられていることの再確認となった。