抄録
【はじめに】臨床場面において長期臥床やギプス固定などによる不動は関節可動域制限を引き起こす最も重要な原因の一つであると認識され早期から多くの専門家が治療場面に介入している。にもかかわらず,依然として関節可動域制限は理学療法を行う上で最も多く遭遇する問題である。今回,我々は関節拘縮の基礎的研究として,ラット膝関節を一定期間同一肢位に固定した場合に起こる可動域制限の発生について実験を行った。【対象と方法】対象は9週齢のWistar系雄ラット10匹(体重280gから300g)を用い,固定前の膝関節可動域は伸展-29.5±0.9度であった。固定肢位は右後肢を股関節最大伸展位,膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位でギプス固定し,左後肢は自由にした。ラットはギプス固定後も前肢と後肢で飼育ケージ内を移動でき,水と餌は自由に摂取可能であった。膝関節の測定は2週ごとにギプスを切除し浮腫,膝関節周囲の傷の有無を確認,角度測定を行い,再度ギプス固定を行った。ラット膝関節の測定方法は,大転子と大腿骨外側顆の中心を結ぶ線を基本軸,膝関節裂隙中央部と下腿骨外果を結ぶ線を移動軸とし角度計にて同一検者にて膝関節伸展角度測定した。【結果】ギプス固定前と固定後の可動域制限を求めるために固定後の伸展制限から固定前の伸展制限を差し引いて求めた。結果,固定後2週で35.8±7.0度,4週後で59.1±10.9度,6週後で69.7±2.8度,8週後で73.9±3.9度,10週後で77.4±7.1度,12週で80.6±6.0度,14週で82±6.8度、16週で77.2±6.0度の可動域制限を認めた。【考察】今回,ラットの膝関節をギプスにより固定することで生じる可動域制限を数量化した。ラット膝関節固定により起こる関節可動域の制限は実験の初期である2週から8週までは直線的な増加が観察され,その後16週までは緩徐な増加が観察された。これらは,関節の可動性を制限する要因に何らかの変化があった可能性を示唆する。 八百板はラットの膝関節内固定の実験で20から30日間で可動域制限が急速に起こり,40日から50日で関節軟骨の病変が起こると報告している。また,Trudelらも同様にラットの膝関節内固定で,関節固定後早い時期では筋が可動域制限に影響し,さらに,固定が長期になるにつれて筋よりも関節包の影響が大きくなると報告している。本研究結果は固定方法が異なるが,これらの報告と類似した結果であり,関節の可動性の変化は8週と比較的早い時期で緩徐な角度変化となった。 以上の結果でラットからヒトへの外挿の問題はあるものの,長期の固定は不可逆性の可動域制限を起こすことが推察され,できるかぎり早い時期での固定の除去が望ましいと考える。