抄録
【はじめに】トランスファー介助(以下、介助と略す)は、看護業務中に腰痛を感じる動作とされている。そこで今回、8パターンの介助方法を実験的に行ない、腰部への負担度を評価したので報告する。【対象と方法】腰痛症のない女性看護師19名と、その他の被験者10名(PT2名、OT3名、実習生5名)の計29名を被験者(以下、介助者)とした。脊髄損傷完全対麻痺患者の代役として、女性職員を被介助者(以下、患者)に特定し、ベッド上端座位の患者を車いすへ移す動作を行なった。介助方法は、看護師法;看護師の普段おこなっている方法。腰ベルト装着法;患者に介助用腰ベルトを装着して、看護師法を行なう。両膝固定法;患者の両膝を介助者の両膝で挟む様にして固定する。次に、患者を立位姿勢にさせて足部を支点に方向転換し、車いすに着座させる。体幹前屈法;患者は、移動方向と逆側の介助者の腋窩下に体幹を前屈させる。介助者は両上肢を患者の腋窩を通過させて腰ベルトを握る。患者の体幹を前屈させたまま殿部を挙上させ、方向転換し車いすに着座させる。以上の4パターンとし、ベッド高は介助者の身長の30%、40%の2パターンとした。合計8パターンをランダムに全て行い、筋活動とVASを記録した。筋活動は、表面筋電計Myosystem1200を使用し、左右の多裂筋、大腿直筋を被験筋とした。十分な前処置を施し、各被験筋の最大随意筋収縮(MVC)を記録した後、介助動作時の筋活動を%MVCとして用いた。なお、筋電計に同期させた圧感知センサー付きマットを患者の殿部下に設置し、殿部挙上から車いす着座までを介助区間として時間的正規化を行なった。VAS値は、腰部負担なしを0、最大の腰部負担を100とする100mmの横線を描いた用紙を使用し、各パターン終了直後に介助者が負担度を記入した。集計データは、対応のないt検定、Mann-Whitney U検定、関連多群の多重比較法にて解析し、有意水準5%未満を有意差ありとした。【結果と考察】看護師とその他の介助者の属性に有意差は無かった。また、看護師法40%左大腿部、腰ベルト装着法30%VAS以外に看護師とその他の介助者間で有意差は無かった。そのため、全介助者を対象にした検討を行なった。 多重比較法の結果、左右の多裂筋の活動は、全パターンにおいてベッド高40%が30%よりも有意に低値を示した。特に、体幹前屈法40%では、他のパターンの40%よりも有意に低値を示した。大腿直筋の活動は、右大腿直筋では、両膝固定法、体幹前屈法のどの高さでも、看護師法30%より有意に低値を示したが、左大腿直筋では、全ての方法で有意差は無かった。VAS値では、体幹前屈法30%と40%が、看護師法、腰ベルト装着法よりも有意に低値を示した。以上の結果をもとに、考察のなかで介助方法の検討を行なう。