理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: SP126
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産業・労務管理
軽運動が腰背筋疲労の回復に与える影響
*渡邉 進江口 淳子
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キーワード: 軽運動, 筋疲労, 回復
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抄録

【目的】持続的な作業姿勢がもたらす腰痛症は産業医学の分野では大きな問題である。この種の腰痛症の多くは腰背部の筋疲労によってもたらされ、筋持久力と関連が深いといわれている。スポーツ医学領域では軽運動、ストレッチ、マッサージなど筋疲労の回復のために実施されることが多いが、産業医学領域での適用は少ない。特に腰背部の筋疲労に対する理学療法的介入の効果を検証した研究は見当たらない。本研究の目的は腰背筋の疲労に対して軽運動が与える影響を筋電図学的に検討することである。【対象と方法】対象は腰痛症の既往歴のない健康な男性16名(21から24歳)で、ランダムに対照群8名と実験(軽運動)群8名の2群に分けた。十分な皮膚処理後、第3(L3)と第5腰椎(L5)棘突起の高さで右腰背筋に表面電極を貼付した。はじめに対象者に徒手筋力測定法の“正常”を行わせ最大随意収縮(MVC)を測定した。次に両群とも腹臥位でベッドから上半身を乗り出して空中で水平に保持するSorensonのtrunk holdingテストを2回実施した。それぞれの保持時間は2分間とした。対照群では、2回のテストの間に背臥位で5分間の単なる安静をとらせた。実験群では1回目のテスト後に背臥位で1分間の腰背部伸展の軽運動(約40%MVC)を6回行わせた後4分間の安静をとらせた。この間の筋電図を記録・解析し両群間で比較した。筋電図学的解析には周波数解析(高速フーリエ変換)を用いた。2秒間毎に周波数中間値(MF:median frequency)を求め、最小二乗法で回帰直線を引いて2分間の減少率(MFS:MF slpoe)を計算した。さらに回帰直線のy切片から初期MF(IMF:initial MF)を求めこの値でMFS を除して正規化して比較の指標(NMFS:Normalized MFS)に用いた。この値が大きいほど疲労が強いことを示す。筋電図の記録と解析にはNORAXON社製MyoReseachを用い、サンプリング周波数は1,000Hz、記録周波数帯域は10から500Hzとした。統計解析にはWilcoxon testを用いた(p<0.05)。【結果と考察 】両群の各テストで、L3、L5レベルの腰背筋ともMFは経時的に減少を示した。これはテスト中に腰背筋が徐々に疲労したことを示している。しかし2回のテスト間の5分後にIMFが元に戻ったことからこの間に疲労回復が起きたものと考えられる。次に対照群のL3、L5と実験群のL5の腰背筋の2回目テストのNMFSは1回目と比較して有意に大きかったが、実験群のL3では有意差がなかった。このことは対照群のL3、L5と実験群のL5では2回目テストで疲労が強くなったが、実験群のL3では疲労が強く起こらず、軽運動がL3レベルの腰背筋の疲労回復に好影響をを与えたことを示唆している。一般に持続的な筋収縮による筋疲労は、局所の乳酸蓄積、水素イオン濃度上昇などによってもたらされ、それが筋伝導速度の減少を招き、筋電図周波数の低周波化を引き起こすと考えられている。軽運動がL3の疲労筋の血液循環を改善し、速やかな疲労回復をもたらしたものと考えられる。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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