抄録
【目的】立位での外力に対する姿勢制御時の腓腹筋活動開始時間(潜時)を姿勢保持の反応時間と考える。ここで,腓腹筋の反応時間(RT)との関係を確認しておきたい。そこで腓腹筋を対象とした立位での外力に対する潜時と,光刺激に対するRTとの関連性を検討したので報告する。
【方法】対象は健常男性9名(平均年齢23.9±3.3歳)である。測定肢は立位の被検者を後方から強く押した時に踏み出さずに残った側の下肢とし,腓腹筋外側頭(GL)・内側頭(GM)に表面電極を貼り付けた。
RTはベッド上腹臥位で,光刺激に対してできるだけ速く足関節底屈運動を行わせて測定した。記録したGL・GMの筋電波形(EMG)をもとに,光刺激を与えてから筋活動が開始するまでの筋電図反応時間(PMT)と,筋活動開始から足底に取り付けたON-OFFスイッチ(スイッチ)がONとなって関節運動が起こるまでの運動反応時間(MRT)を計測した。
潜時の測定は,開眼で上肢を自然に垂らした立位をとった被検者に外力を与えて,できる限り立位を保持させ,その時のGL・GMのEMGを記録した。外力は被検者の肩(左右肩峰の中間)または腰(左右腸骨稜の中間)部分をスイッチを貼り付けた検者の手掌面で,後方から押して与えた。手順としては1)肩のみを押すと事前に被検者に知らせて与える(肩潜時),2)腰;腰のみを押すと知らせて与える(腰潜時),3)肩・腰のどちらかを押すとだけ知らせて検者が無作為に与える(選択潜時),の3条件で加えた。なお何れも外力を与えるタイミングは予告しなかった。
測定の順番は無作為とし,各測定を5~6回ずつ繰り返した。PMT,MRTと潜時から被検者ごとのトリム平均値を求め,PMT・MRTと潜時との相関係数をGL・GMごとに確認した。次にPMTと潜時のそれぞれにおいて,GLとGMのどちらが早く活動するかを観察した。さらに全変数間の関連性を知るために因子分析(バリマックス回転;累積寄与率80%まで)を行った。
【結果】PMT・MRTと潜時間に有意義な相関関係はみられなかった。また,PMTではほとんどの者がGMから活動したが,潜時では被検者によりばらついていた。因子分析の結果では,第1因子;選択潜時(GL・GM),腰潜時(GL),PMT(GM),第2因子;MRT(GL・GM),肩潜時(GL・GM),第3因子;PMT(GL),腰潜時(GM)に分けることができた。
【考察】PMTまたはMRTと各潜時は直接的な関係はなかった。潜時はGL・GMの活動順位が一定しておらず,様々な要因が影響していると考える。しかし,因子分析の結果から第1因子は心理的な要因,第2では,肩への外力の姿勢反応として足関節ストラテジが起こることを勘案して,MRTも含まれるので運動の反応性,第3はその他の要因を反映すると考えることができ,全く無関係ではないといえる。従って,その他の影響要因を探索し,更にこれらの関係を検討する必要があるだろう。