抄録
【目的】
視覚的な情報を基にして運動に変換する能力(視覚情報フィードバック能力)は、姿勢制御において重要な要素である。本研究では、この視覚情報フィードバック能力を測定できる可能性を有する機器を考案し、健常者において視覚情報フィードバック能力の年齢による差を検出可能か否か検討することを目的とした。
【方法】
考案した機器は傾斜板(ディジョックボード(酒井医療株式会社製))に取り付けた加速度計によって、コンピュータ画面上の四分円上に傾斜板の傾斜方向と傾斜程度を示す点が即時的に表示される。その点が四分円上の中心にある場合は傾斜板が水平、中心よりも上方または下方にある場合は前後方向、右方または左方にある場合は左右方向へ傾斜板が傾斜していることを示す。今回、傾斜板の傾斜方向を8方向、傾斜角度を最大傾斜角度の80%となるよう目標点を設定した。その目標点は一方向の目標点に到達後、中心に戻るようコンピュータで制御した。したがって、本研究における全到達目標点は16個とした。
被験者は20~70歳代の健常女性73名(20歳代:20名、30歳代:8名、40歳代:9名、50歳代:8名、60歳代:16名、70歳代:12名)とした。被験者には、加速度計付き傾斜板上に両足を置いた端坐位をとらせ、全16目標点への到達所要時間を3回測定した。分析方法は、各年代別に1回目から3回目までの所要時間について一元配置分散分析後、Scheffeの多重比較検定を行った。また、3回目の所要時間について、年代を要因とした一元配置分散分析後、Scheffeの多重比較検定を行った。
【結果】
各年代別の1回目から3回目までの所要時間の変化について、20歳代と40歳代では1回目より2回目・3回目の所要時間が有意に短縮し(p<.05)、30歳代、50歳代、60歳代、70歳代では1回目より3回目の所要時間が有意に短縮していた(p<.05)。3回目の平均所要時間は、20歳代:28.0±2.7秒、30歳代:28.7±2.7秒、40歳代:29.4±2.3秒、50歳代:34.5±7.6秒、60歳代:38.5±7.2秒、70歳代:42.9±11.0秒であり、20歳代および30歳代と60歳代および70歳代の所要時間、40歳代と70歳代の所要時間に有意差が認められた(p<.05)。
【考察】
本研究では、考案した機器による所要時間を測定することによって、視覚情報フィードバック能力を推定できると考えている。
今回の結果より、20歳代から40歳代では2回の計測で所要時間が短縮したのに対して、50歳代から70歳代では所要時間の短縮に3回の計測を要した。したがって、50歳代以降では、視覚情報フィードバック能力の順応性が低下していることが示唆された。また、加齢による変化として、50歳代以降から視覚情報フィードバック能力が低下していくことが推測された。